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私一人当城に残り留まって

2021年10月23日 16:25

717 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2021/10/23(土) 15:12:10.36 ID:ME8xMoQB
宍戸家の譜代の侍である中村四郎兵衛尚種は、石見国矢筈の城の加番として籠め置かれていた所に、
尼子勢がかの城を取り囲んで攻め働くこと、天柱も折れ坤軸も砕けるほどのの激しさであった。
このため城番の諸卒は日々夜々落ちていき、ついには尚種ただ一人が残った。
彼は尼子勢を程近くまで引き請けると矢倉に上り、敵勢に矢留を乞うて声高に叫んだ

「当城は毛利方が相抱え、そのため各方が取り囲んだ所、城番の者たちは番頭を始め
腰抜けの集まりであったので皆々落ちていった。

私は、宍戸安芸守隆家より加番として差し籠められた中村四郎兵衛尚種と申す者である!
誰であっても命は惜しいものだが、我が主君隆家は軍法厳密にして制している故に、
死を遁れることは出来ない。私一人当城に残り留まって、只今切腹に及ぶ。
敵方の心有る人は、その首を取って大将の見参に入れてほしい。残った屍は痩せた犬を肥えさせれば良い。」

そう言うと腹を掻っ切って死んだ。
この事を味方は全く知らず、矢筈の城は落城したとして味方の勢は皆撤退したというのに尚種が未だ
帰ってこないのは、追討ちに遭って討たれたか、または捕虜と成ったのだと考えていた。
そのような所に、尼子勢は彼の志に感じ入り、毛利方へ首を送り尚種の最後の様子を詳しく言い伝えた。
これを聞いて宍戸隆家を始め各々鎧の袖を濡らし、このため子孫には褒美の地が与えられ、今に至るまで
その勇名が表彰され子孫も保たれている。

(宍戸記)



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