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伊藤一刀斎と船頭

2019年09月01日 17:45

352 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2019/09/01(日) 15:49:58.23 ID:QJScnLQh
伊藤一刀斎が剣術を広めようと諸国修行していた折、淀の夜舟にて大阪へと下った。
この船の船頭は力量優れた者であり、一刀斎が木刀を携えているのを見て、

「御身は剣術を修行されているのか。剣術とは人に勝つ道理であるが、私の力には普く
剣術の達人であっても叶うとは思わない。手合わせ致さないか?」

そう言ってきた。一刀斎は彼の様子を見るに、たいへんに強剛であると見え、いかがしようかと
思ったが、「しかしながら剣術修行に出て、たとえ命が果てたとしても辞退するのは本意ではない」と、
互いに死を約束し陸に上がった。

船頭は櫂を片手に持って、拝み打ちに一刀斎を打ってきた。これを身を開いて外すと、力が余っているため
大地にこの櫂を打ち込み、引き抜こうとした所を一刀斎が木刀を以て櫂を打ち落とし両手を押さえた。
船頭は閉口して一刀斎の弟子となり、随身し諸国を巡った。彼は元来力量優れていたため、国々に於いて
立ち会いがあった時も、一刀斎は手を下さず、殆どはこの船頭が立ち会い、何れも閉口して、その中より
一刀斎の門弟と成ったものも多かったという。

しかしながら、彼は元来下賤の者であり、その上心様も真っ直ぐではなく、一刀斎に敗北したことを
無念に思っていたようで、立ち会いにては叶わないのならばと、夜陰に旅泊において一刀斎が眠るのを待ち
付け狙うこと数度に及んだが、一刀斎の身の用心に隙きがなかったため、空しく供をして江戸表へと
至った。

そのような中、将軍家より一刀斎を召されたが、彼は諸国修行の望みこれ有るのよしを以て御断り申し上げた。
このため門弟の内を御尋が有り、そこで一刀斎は小野次郎右衛門を推挙し、かれが将軍家に召し出されることと
決まった。

これにかの船頭は大いに恨み、「我は最初から一刀斎に随身し共に流儀を広めた功がある。にもかかわらず
この度将軍家のお召に、末弟の次郎右衛門を推挙したことは心外である!もやは生きても益なし。
次郎右衛門と真剣の試合を以て生死を定めたい。」

この望みを申すと、一刀斎は答えた
「その方は最初より随身の者であるが、これまで度々私を付け狙ったこと、覚えがあるであろう。
今まで生かして置いていたのも甚だの恩徳である。しかしながら次郎右衛門と生死を争う事、
望みに任せよう。」

そう言って次郎右衛門を呼び委細の訳を申し談じ、勝負いたすべき旨を申し渡し、その上で次郎右衛門に
伝授の太刀を免した。

そして立ち会いの上、次郎右衛門の一刀の元に、かの船頭は露と消えた。

さて、その後次郎右衛門は召し出され、なお又牢内に罪有る剣術者を選ばれ立ち会いを仰せ付けられた。
この時も次郎右衛門は妙術を顕し、よって千石にて召し抱えられた。

(耳嚢)



356 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2019/09/02(月) 01:28:04.05 ID:yY+jfsub
>>352
吉川英治の「剣の四君子 小野忠明」だと、弟子はこの船頭と改名前の神子上典膳の2人だけだったけど、史実だともっと多かったのか

357 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2019/09/02(月) 04:15:55.93 ID:O3cztPnV
バガボンドだと佐々木小次郎も弟子

358 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2019/09/02(月) 12:15:54.84 ID:5fsxEytf
地元だと一刀斎が堀久兵衛を暗殺したんだと
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小野次郎右衛門出身の事附伊藤一刀斎が事

2016年07月26日 17:54

922 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2016/07/25(月) 23:20:28.70 ID:Yfnqv6S2
小野次郎右衛門出身の事附伊藤一刀斎が事

 伊藤一刀斎は剣術を広めようと諸国を修行していた。
淀の夜船で大坂へ下っていたときのことである。
船の船頭は力量が優れていた者であり、一刀斎が刀を携えていたのを見て

「御身は剣術でも修行されているのか。
剣術は人に勝つ道理だというが、我の力にはあまねく剣術の達人でも敵うとは思えない。手合わせできないだろうか。」

と言う。一刀斎は様子を見て、かなりの強剛に見えたので、どうかと思ったが、
どうせ剣術修行の出てきたのだから、たとえ命が果てることとなっても手合わせを辞退をするのは本意ではないと、
互いに死を約束して陸に上がった。
 船頭は櫂を片手で持って拝み打ちで一刀斎を打ちにいったが、身をかわされ外してしまい、
力が余ったためだろうか大地へ櫂を打ち込んでしまった。
引き抜こうとしたところを、木刀で櫂を打ち落とされ両手を押さえられたので、船頭は降参し弟子となって諸国へ付き随った。

 元来力量が優れていたので、国々で立ち合いの時も一刀斎は手を下さず、大抵は船頭が立ち合い、いずれも降参させて、門弟とさせる者も多かったという。
 しかし元来は下賤の者で、その上、心ざまは真っ直ぐではなかったので、一刀斎に降参したのを遺恨に思っていたと見え、
立会いでは敵わないと夜陰に旅泊していたときに一刀斎が眠っているとみたら、付け狙う事数回に及んだが、
一刀斎の身の用心に隙間がなく、むなしく江戸へ随ったていたという。

 江戸では将軍家から一刀斎を召抱えたいとの話もあったが、諸国修行の望みがあるのでとお断り申し上げた。
門弟の内にふさわしい者はいないかとお尋ねがあったので、小野次郎右衛門を推挙して、召抱えることに決まった。
 これに、かの船頭は大きく恨み

「我は最初から一刀斎に随い、共に流儀を広めた功がある。
このたび、将軍家の御召しに末弟の次郎右衛門を推挙した事は心外である。
全く生きてきて良いことが無い。次郎右衛門と真剣の試合で生死を決めたい。」

と申し上げると、一刀斎は

「その方は、最初から随身していたが、これまでたびたび我を付け狙ってきた事は覚えているだろう。
今まで生かしておいたのは格別の恩徳のためだというのに。
しかし次郎右衛門と生死を争いたいといのは望みに任せるとしよう。」

と次郎右衛門を呼んでこれまでの委細を話し、勝負せよと申し渡した。
同時に次郎右衛門へ伝授の太刀を許した。

立会いのとき、次郎右衛門の一刀で船頭は露と消えた。

 さて次郎右衛門は召しだされて、牢内の罪ある剣術者を選んで立ち合いを仰せ付けられた。
これもまた次郎右衛門が妙術を顕わして勝ったので、千石で召抱えられたというそうだ。

(耳袋)

船頭の命までは奪わない甘い展開はなかったわけだ



923 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2016/07/26(火) 07:02:44.90 ID:I4E7S5xh
牢内の罪ある剣術者を選んで立ち合い って最初から処刑前提で選んでいるだろ。
グラディエーターという映画では、皇帝が勝てるように最初から対戦相手にはケガを負わせてから
出場させていたけど。

925 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2016/07/27(水) 13:25:08.35 ID:K9rTlUr0
>>923
こういうのは死にもの狂いの人間相手に勝てるか、っていうある種定番のテストだよ
死刑囚に「勝ったら無罪放免にしてやる」って言って戦わせるの

家中の人間に本気で相手させると遺恨が残ったりするけど
死刑囚なら使い捨てに出来るから適任なの

一刀流の祖・伊藤一刀斎景久は

2015年12月02日 12:36

720 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2015/12/02(水) 02:31:32.97 ID:/f+gQegS
一刀流の祖・伊藤一刀斎景久は、世に並ぶ者のいない剣術の達人である。
諸国を武者修行して名の有る者と勝負したが、一度も負けたことはなかった。

ある時、京都で1人勝負を望んで来る者がいた。その者はたちまち一刀斎に
打ち負けて、その弟子となった。この者は深く憤ったのか、徒党4,5人で
相談し、その一味も同じく門人となって一刀斎の術を学んだ。

ある夜、悪党らは酒肴用の物を携えて一刀斎のもとに来たり、これを勧めた。
一刀斎は興に入り、酔い伏したため、悪党らは帰っていった。

ところでかねてより一刀斎には1人の愛妾がいた。一刀斎は彼女には何事も
心を許していた。その妾を悪党どもは様々に欺き騙して、謀を合わせた。

まず彼女に一刀斎の大小を奪わせた。これで安心だと、悪党らは夜半過ぎ頃、
一同に一刀斎のところへ入って来た。入り口の戸は妾が開けておいたので、
悪党らはただちに一刀斎の寝所へと仕掛けていった。

折りしも夏のことなので蚊帳が吊ってあったのを、悪党らは入りざまに四つ乳を
切って落とした。その時、驚き目覚めた一刀斎は枕元をさぐるも両刀はない。

早くも前後左右から切り掛かってくるのを、一刀斎はあちらにくぐり、
こちらにひそみ、ようやく蚊帳から這い出した。

その時、宵の酒肴の器が手に触れたので、一刀斎は手に当たるに任せて
向かう者へ続けざまにそれらを投げつけた。そして飛び掛かって敵の持つ
一刀を奪い取った。

今まで無手でさえ討たれざる一刀斎、刀を得たとなれば虎に翼を添えるが如し。
一刀斎は当たるを幸いに切りまくった。これには何をもって持ち堪えられようか、
しばしのうちに深手浅手数多となり、これは叶わないと、各々手負いを助けて
逃げ去った。かの妾も同じく行方がわからなくなった。

こうして一刀斎は比類のない働きをしたが、女に心を許したことを恥ずかしく
思ったのであろうか、その日に京都を出て、東国に赴いたという。

――『撃剣叢談』