360 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 22:03:41.86 ID:1VpqS5H/
江戸近郊の目黒に置いて、将軍
徳川家光による鷹狩が行われた時のことである。
この目黒には、成就院という寺院があったのだが、そこに4,5人の武士が尋ねてきた。
住職が何事か聞けば
「我々は将軍家御鷹狩のお供の者なのだが、大変くたびれてしまってな。すまんが、少しここで
休ませてもらえないだろうか?」
住職は「ああお安いこと、どうぞどうぞ」と寺の内に入れた。
「将軍家様の御鷹狩で、このあたりは大変な騒ぎですよ」「そうであろうな」
などと言いながら寺の客殿に通した。と、そこの壁には菊が見事に、まるで絵画のように美しく飾ってあった。
一番身分の高いらしい、若い侍がこれに感心し
「失礼ながら、このような田舎でこんなに素晴しい生花を見るとは思わなかった。この寺は良い檀家を
持っておられるようだな。」
そう尋ねると住職
「いえいえ、ここは江戸より遠く、然るべき檀家というものも無いのですが、ただ保科幸松殿と申せし方の御母上が、
時々祈祷のことなどお頼みされるのですが、そちらもお台所苦しく、布施のものも、豊かではありません。」
「ふむ…、その他には?」
「ははは、その他はもう皆、物の数に入らぬような…。ああそうだ、こちらにいらっしゃる皆さんは
将軍家の御家人であられるそうなので、恐れ多いことなのですが…」
住職、内緒話と声を低くし、その武士に少し近づいて語り出す
「その保科幸松殿と申す方は実は、今の将軍家の正しき御弟君だと承っております。
であるのに僅かの領地しか無く、貧しくされているのはなんといたわしい事でしょうか!?
たとえ賤しき身分の者であっても、兄弟が親しみ深くするのは世の習いだというのに、
一体どうして、あのように身分の高い方が情けなく出来るものなのでしょうね?」
と、これを聞いてその侍、少し顔色を変えたが、他の者達の方に向き直り
「さて、もう出かけよう。そろそろ上様がお帰りの時間である。」そして住職に
「御僧のお情けで足を休めることが出来た。また参ることもあるだろう。」と声をかけ、寺を出て行った。
しばらくして
成就院に大勢の、将軍家に付き従う武士達が押し寄せた!
住職が挨拶もする間もなく、その者達叫ぶ
「上様は!?上様はいずこにおられる!?」
「う、上様?わ、我らは上様のことなど一向に知りません。ただ先ほど、鷹狩の
お供の方がこちらでお休みに…」
これを聞いて押しかけた者たち唖然
「ば、バカモーーーン!その御方が上様だ!!」
住職驚愕
「な、なんですってー!?」
「未だ遠くには行かれていないはずだ、追いかけるぞ!」「ははっ」
武士達は一斉に家光たちが向かったという方を追いかけた。
哀れなのは住職である。これを聞いてから「ああ何ということだ、私は上様になんて失礼なことを。
いかなる罪を仰せつかるのであろうか?」と恐怖し、それから一月程、門の外に足音高く
人が通り過ぎるのを聞くだけでも、魂が消えるような思いをしたという。
さて、一方保科幸松、改め
保科正之、この事から程なく家光より多くの領地を与えられ、家光の信頼厚く
やがて山形を領する。正之はこれを成就院の恩として、かの寺に土地など多く寄進したという。
徳川家光、鷹狩の最中のお忍びで弟正之の存在を知る、という一席。
ビビりまくった住職さんがちょっと可愛そうだったのでこっちにw
361 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 22:17:43.39 ID:KdZYUSkC
そりゃあ、焦るわな
362 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 23:10:23.89 ID:Rty+LYv9
やっぱり坊主は目黒に限る
363 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/03/27(日) 23:23:19.49 ID:OFPp8sjC
しかし
保科正之自身は神道に傾倒していて会津では廃仏毀釈してたんだよね
364 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/03/28(月) 00:12:59.73 ID:iJZYvXIS
保科正之は晩年神道にはまったけど、廃仏毀釈なんてあったか?
365 名前:人間七七四年[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:18:19.44 ID:0pc7QKM6
しかし、その坊さんは若い侍の着物に葵の紋に気付かなかったのかな?時代劇とかだと着物に付いてるけど。
373 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/03/28(月) 10:53:24.68 ID:UOMnrPhJ
>>と、そこの壁には菊が見事に、まるで絵画のように美しく飾ってあった。
家光…ゴクリッ