141 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/10/29(水) 21:34:23.93 ID:KGer5jbZ
水野日向守(勝成)の家臣であった某は牢人し、その後困窮したため、袖乞いをしようと思い、
鍛冶橋御門の外を通り過ぎると、知己である兼松弥五右衛門に出会った。
しかし牢人某はこの時編笠をつけており、顔が見えなかったため兼松は相手がだれか解らなかった。
またこの某は笠の下から見て兼松だと解ったが、名乗らずに、彼の供の者の袖を引き留め言った
「私は御覧のように尾羽打ち枯らした牢人であり、今日をも送りかねる者です。
どうか、御救助願い奉る。」
兼松はこれを聞くと
「宿であれば救助の仕方もあるのだが、出掛けの途中であり心に任せぬ。
さりながら私を見かけて乞われたのは大慶である。」
そう言って懐中より金入れ袋を取り出し、中も見ずそのまま鼻紙に包んで
「心には任せぬながら、これを」
そう言って渡すとそのまま歩いて行った。
牢人某は袋の中を改めてみると、金が14,5両、銀が10ばかりも入っていた。
某はその中から三分取り出し懐中に収めると、残りを持って兼松を追いかけ、供の者に渡して
「私が今必要なのは三分で足ります。残りは道中の御用に返上いたします。」
兼松は「いや、これは全てあなたが持たれよ」と言ったが、まるで聞かず某はそのまま走り去った。
この牢人某は尾張町に居住していたのだが、借家賃の滞りが三分あったのを、この日兼松より貰った
三分をその夜大家に持って行って返済した。その後、どこかへと行方知れずとなった。
おそらくは遁世したのであろう。
身は零落するといえども、心は清白なる牢人であると、近辺の者達は彼をそう賞したという。
(明良洪範)
水野日向守(勝成)の家臣であった某は牢人し、その後困窮したため、袖乞いをしようと思い、
鍛冶橋御門の外を通り過ぎると、知己である兼松弥五右衛門に出会った。
しかし牢人某はこの時編笠をつけており、顔が見えなかったため兼松は相手がだれか解らなかった。
またこの某は笠の下から見て兼松だと解ったが、名乗らずに、彼の供の者の袖を引き留め言った
「私は御覧のように尾羽打ち枯らした牢人であり、今日をも送りかねる者です。
どうか、御救助願い奉る。」
兼松はこれを聞くと
「宿であれば救助の仕方もあるのだが、出掛けの途中であり心に任せぬ。
さりながら私を見かけて乞われたのは大慶である。」
そう言って懐中より金入れ袋を取り出し、中も見ずそのまま鼻紙に包んで
「心には任せぬながら、これを」
そう言って渡すとそのまま歩いて行った。
牢人某は袋の中を改めてみると、金が14,5両、銀が10ばかりも入っていた。
某はその中から三分取り出し懐中に収めると、残りを持って兼松を追いかけ、供の者に渡して
「私が今必要なのは三分で足ります。残りは道中の御用に返上いたします。」
兼松は「いや、これは全てあなたが持たれよ」と言ったが、まるで聞かず某はそのまま走り去った。
この牢人某は尾張町に居住していたのだが、借家賃の滞りが三分あったのを、この日兼松より貰った
三分をその夜大家に持って行って返済した。その後、どこかへと行方知れずとなった。
おそらくは遁世したのであろう。
身は零落するといえども、心は清白なる牢人であると、近辺の者達は彼をそう賞したという。
(明良洪範)
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