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猪口佐治兵衛、手柄なる死に様

2013年05月10日 19:52

584 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2013/05/10(金) 07:35:31.39 ID:PxVdPn1x
備州宰相宇喜多秀家殿の家中に猪口佐治兵衛という侍が有った。
剛強の士であり、筑紫陣(九州征伐)、四国陣にても度々の誉れ有る侍であったが、
些かの事があって、秀家より、山村、有岡、片瀬、一原といった歴々の侍に、彼を討つよう
命ぜられた。

この四人、猪口は屈強手柄の者であるので、計略によらねば彼を討つことは出来ないと考え、
互いに相談した上で、次の日の早朝、四人揃って猪口の家を尋ねた。

早朝のため猪口は未だ起きていなかったが、先に起きていた猪口の女房がこれを見て、
「歴々の方々がおいでになりました」と猪口を起こして、下女に献茶を沸かせた。

そうしているうちに猪口も起きてきて、大脇差をキッツと反らせて差し、
「あなた方は早々に御出でになられて、どうしたのか?まあとにかくお上がり下さい。」
と、四人を家に上げた。彼ら、座して言うには

「実は今日は暇になりまして、あなたを驚かせようと早朝に出てきたのですが、
あまりに早くなりすぎました。そんな事なので特にお尋ねするようなことも無く
こちらに罷り越したのです。」

ここに女房が「どうぞごゆっくり。御茶を沸かしましたので、ぜひ一服して行って下さい。」
と四人を留めて座敷を自ら片付けている所に、猪口の脇差も取って勝手に置き、それから
茶を出した。

四人はこれを飲みつつ雑談などして時刻も過ぎる。この間猪口の隙を伺っていたが、
用心厳しく、討つべき隙を見出すことは出来なかった。
とにかくこれは首尾が悪い、今回は無理だと考え、
「ではそろそろ帰ります。明日またお目にかかりましょう。」
と、おいおいに立ち上がると、猪口は
「早々のお帰り、名残惜しいことです」と彼らを見送りに庭へと出、四人に向かって礼をした所、

「!」

有岡、刀を即座に引きぬいて打ち付ける!猪口、頭から肩にかけて骨まで達する傷を受ける

「心得たり!」

猪口そう叫ぶと刀引き抜き、弓手(左)の肩を斬り下げ、二の太刀にて無二無三に斬って懸ると
有岡は深手を負って退いた。残る三人、門の外で刀を抜き猪口に掛かろうとする。

猪口は女房に「この傷を結わえよ!ふらめいて悪しきぞ!」と、家の中で手ぬぐいで傷を結わえさせると、
二尺七寸の太刀を引きぬいて出、三人を相手に散々に斬り合う。

ここで女房は、火を炊いたばかりの熱い灰をかき集め、夫と斬り合っている三人に向かって浴びせかけた!
灰は彼らの胸に入り目を潰し、方角を見失った所に猪口踏み込み、死狂いに斬りまくり、終に刺客の四人全てを斬り伏せた。

宇喜多秀家は猪口を仕損じたことを聞くと、百人ばかりの勢を出して猪口の家を弓鑓にて八重に取り囲む。
猪口はここで「今は思いつく敵は尽く討ち取った!もはや思い残すことはない。」と、腹を掻っ切って死んだ。
これを見聞きした人々、「このような手柄なる死に様はない」と言って、褒めぬ人は居なかった。

その後猪口の女房は召し捕られたが、
『こんな女もあるものか。彼女はあの事態の中少しも取り乱さず、亭主を却って取り回し、
置き灰を浴びせかけ歴々の者を討たせた。男であっても中々出来る事ではない。急ぎ家財を返還し
故郷に戻すべし』とされて、親元へと送られた。

これも大変名誉のことであると、褒めぬものは居なかった。
(義殘後覺)





585 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2013/05/10(金) 10:49:16.49 ID:aRwiAAEQ
直家「下手じゃのう」

586 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2013/05/10(金) 10:55:57.85 ID:+w/xDqSI
義輝「猪口とやらには共感を覚える」

589 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2013/05/10(金) 14:57:54.03 ID:D/MFbD91
>>584
>些かの事があって
省略される程度の事柄で討ってしまうには惜しい侍だな・・・

590 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2013/05/10(金) 18:42:15.84 ID:8RwOjXbu
歴々、なんて書かれる以上彼等も手練れだろうに、行き当たりばったり感満載で、四人に全く歴々感がないな……

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