314 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2019/08/07(水) 12:41:58.23 ID:NfUoYjq1
石川左近将監(忠房)が大番にて大阪城に在番していた時、毎夏の虫干しが有った。数々の武具、兵具などを
取り出し、その掛りの武具奉行らが取り扱って、御蔵より持ち運ばせたのは加番大名(大番の加勢)の
人足たちであった。
数多の鉄砲の内、群を抜いて重いものが有り、これの搬出にあたった者も甚だ持ち悩み
「多くの内、このように重いものはどんな人が持っていた鉄砲なのか。」などと不満を口ずさんだが、
よく見るとこの鉄砲には『南無妙法蓮華経』と象眼にて彫り入れてあった。これについて、詳しい者が
「これは加藤清正の持ち筒を納めたものだ。清正の武器には題目を多く書き記している。」と言った。
皆々はこれを聞いて「剛勇の清正所持の上は、そのように重いのも当然であろう。」と感称したが、
鉄砲を担いできた人夫は
「清正は異国までもその名を響かせた人であるが、人を殺すべき鉄砲に題目を書くなど不都合である!
殊にこの鉄砲を担いだおかげで大いに肩を痛めた。大馬鹿者だ!」
そう散々に清正を悪口していたが、俄に心身悩乱して倒れた。程なく起き上がると憤怒の勢いで叫んだ
「雑人の身分として我を悪口なしぬるこそ奇怪なれ!」
それまでの人夫の口上とは全く違い、その凄まじさは言葉にも出来ないほどであった。
周りに居た者たちは色々詫言して宥めたが、まったく承知しようとしない。仕方なく、その時の
加番が松平日向守(直紹)であったため、その小屋にこれを報告した所、日向守の家老が驚いて、
俄に裃などを着し、かの場所へ駆けつけた
「さてさて、不届き至極なる人足かな。事にもよって、故有る武器に対しての雑言、憤りの段尤もであり、
恐れ入り候へども、雑人の義であり、何分宥恕をあい願う。」旨、丁寧深切に述べた所、かの人足は
威儀を改め
「免しがたき者なれども、雑人の義、その主人の断りも丁寧なれば免しぬる。」
そう言うと倒れた。彼は2,3日は何が有ったかわけがわからず人心地も無かったと、左近将監が語った。
(耳嚢)
石川左近将監(忠房)が大番にて大阪城に在番していた時、毎夏の虫干しが有った。数々の武具、兵具などを
取り出し、その掛りの武具奉行らが取り扱って、御蔵より持ち運ばせたのは加番大名(大番の加勢)の
人足たちであった。
数多の鉄砲の内、群を抜いて重いものが有り、これの搬出にあたった者も甚だ持ち悩み
「多くの内、このように重いものはどんな人が持っていた鉄砲なのか。」などと不満を口ずさんだが、
よく見るとこの鉄砲には『南無妙法蓮華経』と象眼にて彫り入れてあった。これについて、詳しい者が
「これは加藤清正の持ち筒を納めたものだ。清正の武器には題目を多く書き記している。」と言った。
皆々はこれを聞いて「剛勇の清正所持の上は、そのように重いのも当然であろう。」と感称したが、
鉄砲を担いできた人夫は
「清正は異国までもその名を響かせた人であるが、人を殺すべき鉄砲に題目を書くなど不都合である!
殊にこの鉄砲を担いだおかげで大いに肩を痛めた。大馬鹿者だ!」
そう散々に清正を悪口していたが、俄に心身悩乱して倒れた。程なく起き上がると憤怒の勢いで叫んだ
「雑人の身分として我を悪口なしぬるこそ奇怪なれ!」
それまでの人夫の口上とは全く違い、その凄まじさは言葉にも出来ないほどであった。
周りに居た者たちは色々詫言して宥めたが、まったく承知しようとしない。仕方なく、その時の
加番が松平日向守(直紹)であったため、その小屋にこれを報告した所、日向守の家老が驚いて、
俄に裃などを着し、かの場所へ駆けつけた
「さてさて、不届き至極なる人足かな。事にもよって、故有る武器に対しての雑言、憤りの段尤もであり、
恐れ入り候へども、雑人の義であり、何分宥恕をあい願う。」旨、丁寧深切に述べた所、かの人足は
威儀を改め
「免しがたき者なれども、雑人の義、その主人の断りも丁寧なれば免しぬる。」
そう言うと倒れた。彼は2,3日は何が有ったかわけがわからず人心地も無かったと、左近将監が語った。
(耳嚢)
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