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鈴木右近はケチだった。三話

2012年07月17日 20:50

533 名前:1/3[sage] 投稿日:2012/07/16(月) 23:46:54.86 ID:LdB3vkF6
鈴木右近はケチだった。
主君の真田信之に似た(?)のか、広大な屋敷地を拝領したは良いが、敷地にぐるりと竹垣を巡らして他人の
出入りを禁じ、季節ごとに行う垣根の補修も人足を雇わず、中間や領民をコキ使っていた。

「そんな中で八助よ、お前はこの右近の心に叶い、律儀に働いてくれるのう。」
「へへーっ!有り難うございます。」
「よし、この際だ。お前に加増してつかわす。年末を楽しみにしておれ。」

そして、その年の暮れ。右近に呼び出され、ワクワクして主人のもとにまかり出た八助の前に、
年給と別の包みが差し出された。「そら、加増分じゃ。」

包みには銭が百文、入っていた。

「・・・・・・」
「なんじゃ、その顔は。あのな、我が殿は十数万石の大名なれど、侍の加増は十石二十石よ。それを思えば、
わしなんぞが百文の加増をつかわすなど、おびただしき事ぞ。有り難く思えよ。」
「・・・・・・」




534 名前:2/3[sage] 投稿日:2012/07/16(月) 23:47:52.71 ID:LdB3vkF6
鈴木右近はケチだった。
餅が間食に・携帯食にと、年中作っておくのが当たり前だった時代に『米の費えが、かさむ』と
正月以外は餅つきを許さない、という有様だった。

若党八人、中間等二十数人、下女等十数人を使い、若い者も多い右近の家中がそれで収まるはずもなく、
見かねた右近の妻が用人の一場太兵衛に命じて、深夜二時ごろにコッソリ餅をついて配っていた。


さて、右近は毎朝五時に起きて支度し、六時に食事、家内の所用・指示を済ませて八時に登城、という
規則正しい生活を送っていたが、ある日のこと、餅をつく音に気づき、深夜目覚めてしまった。

「太兵衛よ、あれは何の物音じゃ?」
「・・・ははっ、あれは中間どもが、薪を割る音にございます。」
「こんな遅くまで働いておるとは感心だのう。中間に酒を振る舞ってやれ。猪口で三杯、な。」

太兵衛に振る舞い酒を命じた右近は再び眠ると、翌朝はいつも通りの規則正しい生活に戻り、登城していった。


「太兵衛、旦那様はもう、ご登城されましたか?」
「はっ、奥方様。」
「よろしい。では、あとで皆に酒を振る舞ってあげなさい。茶碗や木椀で、ね。」
「はっ、奥方様。」




535 名前:3/3[sage] 投稿日:2012/07/16(月) 23:48:41.38 ID:LdB3vkF6
鈴木右近はケチだった。
それなりの給金を出して中間等を雇ってはいたが、金銭・物品の出し入れの細部に至るまで右近の監視を受け、
『どうにも気が詰まる』と、年季が明けるとすぐ辞めてしまい、二年と雇われる者は稀だった。

「そんな中で八助よ、お前は良く続けて働いてくれるのう。」
「そりゃあ、一応加増していただいておきながら、人並みに辞める、なんてマネはできませんや。」
「うーむ。その心意気、見事!これをくれてやろう。着物の一つも作るが良い。」

右近が褒美として八助に、目にも鮮やかな反物を与えてやった、しばらく後のこと。

「どうじゃ八助よ、あの反物は仕立ててみたか?」
「・・・はっ。」
「歯切れが悪いの。・・・まさかお前、主人からの拝領品を売ってはおるまいな?仕立てた着物を持って来い!」

さっそく八助は、仕立てた着物を着込んで戻ってきた。

「なんじゃ、その着物の丈は。ツンツルテンではないか。やはりお前・・・」
「い、いえ!この通り!」
八助は懐から一尺四寸ほどの、着物と同じ柄の手ぬぐいを取り出して見せた。

「それでも、これほど着物が短くはなるまい。有り体に申せ!」
「お、恐れながら!」

八助が前をくつろげた。そこには着物と同じ柄の、目にも鮮やかな六尺フンドシが締めこまれていた。
「・・・なんちゅうケチじゃ。お前のような者は日本に二人とおるまい。」

『流石質素の右近も、此八助には及ばざると思ひたるとみえたり』と、真田家御事蹟稿は結んでいる。




536 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/16(月) 23:54:08.96 ID:kx+wRB9H
反物を全部着物に使ってたらそれはそれでなんだかんだ言いそうな気がw

537 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 00:50:05.76 ID:+GMXheMF
右近さん禄高どんだけ貰ってたんだろ?
あと柳生新陰流は松代で披露したんかね?


538 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 06:09:10.37 ID:aej02PQb
>>537
1657年の分限帳には500石と書かれている

539 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 09:53:53.00 ID:rYLXF28X
>>538
500石の割に人は多い…のかな?

540 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 12:14:55.73 ID:QOJ15MRf
十万石クラスの大名の家老が500石ってかなり少ないような

541 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 12:25:52.98 ID:QOJ15MRf
と思ったけど調べてみたらそうでもなかった
忘れてください

542 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 18:29:53.43 ID:jpO8CV/W
いつの時代も類は友を呼ぶんだね

543 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 20:53:29.45 ID:DiOFImt+
これケチじゃなくて贅沢だろw

544 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 21:48:59.41 ID:3+YgdTAA
江戸っ子は見えないところに金を使うって話だ(落語の蛙茶番とか)
信州っ子はしらんが

545 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 22:12:20.34 ID:YDLOSd8z
右近は上州っ子


546 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/17(火) 22:50:25.07 ID:JOyTGdHS
>>535
のちの勝負下着か
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泣くな渡右衛門

2010年11月01日 00:01

35 名前:泣くな渡右衛門 1/2[sage] 投稿日:2010/10/30(土) 22:12:17 ID:sK6KKi5p
その日、真田信之の家臣・木村渡右衛門は、江戸からの至急の書状を受け取った。
「!そうか、親父殿が・・・・・・」
真田家江戸家老の要職を務める渡右衛門の父・木村縫殿助は、今や死の床にあった。

昼も夜も無く渡右衛門は駆け続け、江戸藩邸へ向かった。
「父上!」
「・・・おぅ、間に合うたか・・・実はな、お前に頼みがある。わしは鈴木右近とある約束を交わし、誓紙まで書いたが
この有り様では、もはや約束も果たせぬ。お前、このまま国元へ帰り、誓紙を右近に返して謝ってくれ。」

真田家の名物男、鈴木忠重は国元で奉行職を歴任していた。
「そんな・・・誓紙を返すだけなら、他の者でも良いではありませぬか。せっかく急いで来たのです。
ここで、ご病状を看取らせて下さい。」

「いやいや、自分の体は自分が一番分かる。こたびは、もはや助からぬ。結果が分かるゆえ、看取るに及ばず。」
「しかし・・・」「たわけッ!!」
瀕死のはずの縫殿助が、鬼の形相を見せた。
「侍の親子が、国や主家を別にして死ぬ事など珍しくもないわ!末期に汝の顔など見とうもないわ、早く帰れ!!」

(わけの分からん約束事の誓紙一枚のために、親父の死に目に会えんとは・・・)
怒りと涙にまみれながら、渡右衛門は国元への道を急いだ。

36 名前:泣くな渡右衛門 2/2[sage] 投稿日:2010/10/30(土) 22:13:28 ID:sK6KKi5p
「念の入った謝辞、かたじけない。そうか、縫殿助はいかぬか。惜しい者を亡くした。」
返された誓紙を押しいただく忠重にも腹が立つばかりの渡右衛門は、そっけなく鈴木家を辞去しようとした。

「確かにお渡しした。では、拙者はこれで。」
「ああ、待て待て。その顔ではお主、父御の言いつけに納得しておらぬな?だがなお主、この件の他に縫殿助から
何か遺言を授かったかな?」
「・・・・・・」

「それはな、縫殿助がお主という立派な倅を持ったがために、『他に思い残す事は無い』という信頼の表れよ。
その証拠にお主の面構え、縫殿助をそのまま若くしたようじゃ。縫殿助が、うらやましい・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「そこで、だ。縫殿助に似たるお主に、わしと縫殿助の『約束』を引き継いでくれたら、幸いじゃ。」
忠重は渡右衛門に、誓紙の中身を見せた。
「これは・・・!心得申した。ぜひ私に父の約束、果たさせて下され!」



明暦4年(1658)、鈴木右近忠重、主君に殉じ切腹。幕府より殉死の禁が出される中、「右近ならば苦しからず」と
特に許されての殉死であり、忠義の臣・鈴木右近は、歴史に名を残した。

その見届け役の名を、木村渡右衛門という。




38 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/30(土) 22:55:18 ID:TH9bBQss
>>35-36
いい話だ
しかし読む途中で黒田親子の場合を思い出して何ともw

39 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 00:51:37 ID:VGJLsiVI
跡継ぎが立派かどうかって本当に大事だ。
親父さん、気持ちよいご臨終です。

40 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 02:05:45 ID:YntaUwbz
>>35ー36
真田太平記の右近もかっこいいけど、史実もいい男だな

46 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 21:01:56 ID:ELZPdfzJ
しかし右近殿は首を掻き切られたとか押し切られたとか・・・