829 名前:人間七七四年[] 投稿日:2014/03/28(金) 20:55:12.83 ID:QvbjpiGx
今は昔の物語
飛騨の松倉城に三木秀綱という殿さまがいた。
殿様はある日、城の中に一匹の白狐を見つけた。
「白狐は稲荷神の使いと言うぞ」
と、白狐を大事にし、蛻庵(ぜいあん)と名付けた。
白狐も人を恐れる様子もなく、よく懐いていた。
奥方も若様も蛻庵を可愛がり、蛻庵もまだ幼い若様の相手をしたりして遊んでいた。
蛻庵はとても、幸せだった。
しかし世は戦国乱世。松倉城も、金森長近という荒武者に攻められた。
殿様は討死し、優しかった奥方も、若様も行方知れずになってしまった。
蛻庵も、もはやこれまでと思い燃え落ちてくる火をかいくぐって城から逃げ出した。
しかし、行くあてなど無い。蛻庵は家族も家も失った。
山をいくつも越え、ふらふらとさまよううち、蛻庵はとうとう信濃まで来てしまった。
その頃はもう冬のまっ最中、冷たい風が吹き荒れて一面真っ白な雪野原。
蛻庵はこのままでは死んでしまう、と思い切って人間に化けて、諏訪公に仕える千野兵庫という者の家に住み込んだという。
千野家では思いがけず、気のきく小者を雇ったと大喜びで、何かにつけて
「蛻庵よ、蛻庵よ」
と、呼び重宝がった。
ところがすっかり安心した蛻庵は、つい尻尾を出してしまった。
「もし、殿さま。蛻庵が尻尾を出しておりますが。」
家の人が主人に言いつけると、
「おいおい、声が大きいぞ。蛻庵に知れたらなんとする。わしもとうに気づいておるわ。蛻庵は白狐じゃ。だが狐でありながら、熱心に奉公しておるではないか。何か事情があるのだろうよ、そのままにしておけ。」
と、家人をたしなめた。
ところが蛻庵はこの話を物陰から、じっと聞いていた。
「なんと優しき殿さまか・・・狐と知りながら、こんなにも大事にしてくださる。末長くこの家で働きたい。しかし、狐とばれてしまっては、殿さまにどのような噂がたつともわからない・・・」
蛻庵は書き置きを残し、そっと千野家を抜け出していった。
手紙には涙の跡が、残っていた。
そしてまた、蛻庵のあてのない旅が始まった。
つづく
830 名前:人間七七四年[] 投稿日:2014/03/28(金) 20:58:26.07 ID:QvbjpiGx
つづき
そして流れ流れて木曽の興禅寺に辿り着いた。
蛻庵は今度は僧侶に化け
「修行中の者です。蛻庵と申します。どうぞ私を使ってください。」
と、頼んだ。
住職の桂岳和尚は、大変に偉い人で蛻庵をすぐ狐と見破った。
しかし、蛻庵の正直な心根も見抜いていた。
そこでなにくわぬ顔で、
「ふむ、なかなか見どころがありそうじゃ、では当寺の手伝いをしてもらおう。」
と、寺に住み込めることになった。
もとより利口な蛻庵のこと、よく気がつくし、陰日向なく一生懸命に働き、お寺では、
「蛻庵よ、蛻庵よ」
と、大事にされた。
小坊主たちや檀家の人たちにも、親切に接するので、
「蛻庵さま、蛻庵さま」
と、したわれておったという。
とうとう人柄を見込んだ商家の主が
「蛻庵さまを是非わが家の婿に」
と言い出したが、これは和尚様が角が立たぬよう断ってくれた。
蛻庵はやっと、穏やかな日々を手に入れた。
831 名前:人間七七四年[unko] 投稿日:2014/03/28(金) 21:13:25.28 ID:QvbjpiGx
ある冬の日のこと、興禅寺では下呂の安国寺に用ができ、その使いに蛻庵が選ばれた。
和尚「蛻庵よ、道中くれぐれも気をつけて行って来ておくれ。お主のことだから心配は無いがの。」
蛻庵「はい、和尚さま。きっとやり遂げます。」
蛻庵は旅支度を整え、和尚様からの大切な手紙はしっかりと油紙にくるんで、懐に縫い付けた。
次の朝、蛻庵は暗いうちに興禅寺を出た。
信濃を抜け、なつかしき飛騨の山々を見ながら旅を続け、日和田に着いた頃には、短い冬の日は、とっぷりと暮れていた。」
蛻庵は、とある農家を訪ね、宿を請うた。
ところが飛騨の山中のこと、冬は猟師をして暮らしをたてている農家は多い。
この家の主人もまた猟師だった。
夕飯も終え、囲炉裏火に手をかざすと蛻庵は、旅の疲れから、うつらうつらと眠ってしまった。
実は主人は手練れの猟師だったために、蛻庵の正体を見抜いていた。
「この古狐め、うまく化けたと思っても、わしの目はごまかせんぞ。」
主人は、そうっと鉄砲に弾を込めた。
蛻庵は旅の疲れからか気づく様子もなく眠ったまま。
主人は銃をかまえ
「ズダーン」
832 名前:人間七七四年[unko] 投稿日:2014/03/28(金) 21:16:54.72 ID:QvbjpiGx
蛻庵は悲鳴をあげると、みるみる狐に姿を変え、そのまま息が絶えた。
主人がしてやったりと死骸をあらためてみると、懐から血染めの手紙が出て来た。
表書きを見ると、下呂の安国寺の住職あて、木曽の興禅寺の桂岳和尚よりではないか。
「これには何か深いわけがあるに違いない」
主人は殺した狐をあらためて見直した。
よくよく見れば、銀色に光るふさふさした毛の見事さ、狐とはいえ気品の高い白狐ではないか。
主人は急いで、狐の死骸を興禅寺へ運び、和尚さまに、わけを話しねんごろに弔ってもらった。
しかしそれから日和田村に、恐ろしい病がはやり出し、蛻庵を殺した猟師の家が真っ先に死に絶えてしまった。
「これは罪もない蛻庵を殺した祟りに違いない」
と村人は興禅寺に駆けつけ、事の次第を話し、蛻庵の供養をねんごろにしてもらった。
すると疫病はみるみる収まり、村は助かった。
そしてこの時以来、日和田村は興禅寺の檀家になっているという。
そしてこの話の証拠に、興禅寺には蛻庵が書き写した般若経があるそうな。
833 名前:人間七七四年[unko] 投稿日:2014/03/28(金) 21:20:09.94 ID:QvbjpiGx
飛騨の蛻庵狐って昔話です。
長話スマン
834 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 01:33:10.51 ID:6qWEkOw+
化けるのが下手な狐だな。
835 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 18:46:18.18 ID:AD0ukCy7
>>832
悲しいけどいい話じゃないのかと思ったら祟るんかいw
狐が恐れられるのも無理からぬ話じゃ
836 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 18:57:01.58 ID:IoZIcL5Q
狐が憑いて金持ちになっても要求を満たさなくなったらご破算になるし
わしはここ数年、競馬に行っておらんから狐に憑いてもらっておらんが
837 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 18:57:41.39 ID:uzzzTD31
四国は大師様が狐を追い出したからその心配はなし
今は昔の物語
飛騨の松倉城に三木秀綱という殿さまがいた。
殿様はある日、城の中に一匹の白狐を見つけた。
「白狐は稲荷神の使いと言うぞ」
と、白狐を大事にし、蛻庵(ぜいあん)と名付けた。
白狐も人を恐れる様子もなく、よく懐いていた。
奥方も若様も蛻庵を可愛がり、蛻庵もまだ幼い若様の相手をしたりして遊んでいた。
蛻庵はとても、幸せだった。
しかし世は戦国乱世。松倉城も、金森長近という荒武者に攻められた。
殿様は討死し、優しかった奥方も、若様も行方知れずになってしまった。
蛻庵も、もはやこれまでと思い燃え落ちてくる火をかいくぐって城から逃げ出した。
しかし、行くあてなど無い。蛻庵は家族も家も失った。
山をいくつも越え、ふらふらとさまよううち、蛻庵はとうとう信濃まで来てしまった。
その頃はもう冬のまっ最中、冷たい風が吹き荒れて一面真っ白な雪野原。
蛻庵はこのままでは死んでしまう、と思い切って人間に化けて、諏訪公に仕える千野兵庫という者の家に住み込んだという。
千野家では思いがけず、気のきく小者を雇ったと大喜びで、何かにつけて
「蛻庵よ、蛻庵よ」
と、呼び重宝がった。
ところがすっかり安心した蛻庵は、つい尻尾を出してしまった。
「もし、殿さま。蛻庵が尻尾を出しておりますが。」
家の人が主人に言いつけると、
「おいおい、声が大きいぞ。蛻庵に知れたらなんとする。わしもとうに気づいておるわ。蛻庵は白狐じゃ。だが狐でありながら、熱心に奉公しておるではないか。何か事情があるのだろうよ、そのままにしておけ。」
と、家人をたしなめた。
ところが蛻庵はこの話を物陰から、じっと聞いていた。
「なんと優しき殿さまか・・・狐と知りながら、こんなにも大事にしてくださる。末長くこの家で働きたい。しかし、狐とばれてしまっては、殿さまにどのような噂がたつともわからない・・・」
蛻庵は書き置きを残し、そっと千野家を抜け出していった。
手紙には涙の跡が、残っていた。
そしてまた、蛻庵のあてのない旅が始まった。
つづく
830 名前:人間七七四年[] 投稿日:2014/03/28(金) 20:58:26.07 ID:QvbjpiGx
つづき
そして流れ流れて木曽の興禅寺に辿り着いた。
蛻庵は今度は僧侶に化け
「修行中の者です。蛻庵と申します。どうぞ私を使ってください。」
と、頼んだ。
住職の桂岳和尚は、大変に偉い人で蛻庵をすぐ狐と見破った。
しかし、蛻庵の正直な心根も見抜いていた。
そこでなにくわぬ顔で、
「ふむ、なかなか見どころがありそうじゃ、では当寺の手伝いをしてもらおう。」
と、寺に住み込めることになった。
もとより利口な蛻庵のこと、よく気がつくし、陰日向なく一生懸命に働き、お寺では、
「蛻庵よ、蛻庵よ」
と、大事にされた。
小坊主たちや檀家の人たちにも、親切に接するので、
「蛻庵さま、蛻庵さま」
と、したわれておったという。
とうとう人柄を見込んだ商家の主が
「蛻庵さまを是非わが家の婿に」
と言い出したが、これは和尚様が角が立たぬよう断ってくれた。
蛻庵はやっと、穏やかな日々を手に入れた。
831 名前:人間七七四年[unko] 投稿日:2014/03/28(金) 21:13:25.28 ID:QvbjpiGx
ある冬の日のこと、興禅寺では下呂の安国寺に用ができ、その使いに蛻庵が選ばれた。
和尚「蛻庵よ、道中くれぐれも気をつけて行って来ておくれ。お主のことだから心配は無いがの。」
蛻庵「はい、和尚さま。きっとやり遂げます。」
蛻庵は旅支度を整え、和尚様からの大切な手紙はしっかりと油紙にくるんで、懐に縫い付けた。
次の朝、蛻庵は暗いうちに興禅寺を出た。
信濃を抜け、なつかしき飛騨の山々を見ながら旅を続け、日和田に着いた頃には、短い冬の日は、とっぷりと暮れていた。」
蛻庵は、とある農家を訪ね、宿を請うた。
ところが飛騨の山中のこと、冬は猟師をして暮らしをたてている農家は多い。
この家の主人もまた猟師だった。
夕飯も終え、囲炉裏火に手をかざすと蛻庵は、旅の疲れから、うつらうつらと眠ってしまった。
実は主人は手練れの猟師だったために、蛻庵の正体を見抜いていた。
「この古狐め、うまく化けたと思っても、わしの目はごまかせんぞ。」
主人は、そうっと鉄砲に弾を込めた。
蛻庵は旅の疲れからか気づく様子もなく眠ったまま。
主人は銃をかまえ
「ズダーン」
832 名前:人間七七四年[unko] 投稿日:2014/03/28(金) 21:16:54.72 ID:QvbjpiGx
蛻庵は悲鳴をあげると、みるみる狐に姿を変え、そのまま息が絶えた。
主人がしてやったりと死骸をあらためてみると、懐から血染めの手紙が出て来た。
表書きを見ると、下呂の安国寺の住職あて、木曽の興禅寺の桂岳和尚よりではないか。
「これには何か深いわけがあるに違いない」
主人は殺した狐をあらためて見直した。
よくよく見れば、銀色に光るふさふさした毛の見事さ、狐とはいえ気品の高い白狐ではないか。
主人は急いで、狐の死骸を興禅寺へ運び、和尚さまに、わけを話しねんごろに弔ってもらった。
しかしそれから日和田村に、恐ろしい病がはやり出し、蛻庵を殺した猟師の家が真っ先に死に絶えてしまった。
「これは罪もない蛻庵を殺した祟りに違いない」
と村人は興禅寺に駆けつけ、事の次第を話し、蛻庵の供養をねんごろにしてもらった。
すると疫病はみるみる収まり、村は助かった。
そしてこの時以来、日和田村は興禅寺の檀家になっているという。
そしてこの話の証拠に、興禅寺には蛻庵が書き写した般若経があるそうな。
833 名前:人間七七四年[unko] 投稿日:2014/03/28(金) 21:20:09.94 ID:QvbjpiGx
飛騨の蛻庵狐って昔話です。
長話スマン
834 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 01:33:10.51 ID:6qWEkOw+
化けるのが下手な狐だな。
835 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 18:46:18.18 ID:AD0ukCy7
>>832
悲しいけどいい話じゃないのかと思ったら祟るんかいw
狐が恐れられるのも無理からぬ話じゃ
836 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 18:57:01.58 ID:IoZIcL5Q
狐が憑いて金持ちになっても要求を満たさなくなったらご破算になるし
わしはここ数年、競馬に行っておらんから狐に憑いてもらっておらんが
837 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/29(土) 18:57:41.39 ID:uzzzTD31
四国は大師様が狐を追い出したからその心配はなし
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