泣くな渡右衛門

2010年11月01日 00:01

35 名前:泣くな渡右衛門 1/2[sage] 投稿日:2010/10/30(土) 22:12:17 ID:sK6KKi5p
その日、真田信之の家臣・木村渡右衛門は、江戸からの至急の書状を受け取った。
「!そうか、親父殿が・・・・・・」
真田家江戸家老の要職を務める渡右衛門の父・木村縫殿助は、今や死の床にあった。

昼も夜も無く渡右衛門は駆け続け、江戸藩邸へ向かった。
「父上!」
「・・・おぅ、間に合うたか・・・実はな、お前に頼みがある。わしは鈴木右近とある約束を交わし、誓紙まで書いたが
この有り様では、もはや約束も果たせぬ。お前、このまま国元へ帰り、誓紙を右近に返して謝ってくれ。」

真田家の名物男、鈴木忠重は国元で奉行職を歴任していた。
「そんな・・・誓紙を返すだけなら、他の者でも良いではありませぬか。せっかく急いで来たのです。
ここで、ご病状を看取らせて下さい。」

「いやいや、自分の体は自分が一番分かる。こたびは、もはや助からぬ。結果が分かるゆえ、看取るに及ばず。」
「しかし・・・」「たわけッ!!」
瀕死のはずの縫殿助が、鬼の形相を見せた。
「侍の親子が、国や主家を別にして死ぬ事など珍しくもないわ!末期に汝の顔など見とうもないわ、早く帰れ!!」

(わけの分からん約束事の誓紙一枚のために、親父の死に目に会えんとは・・・)
怒りと涙にまみれながら、渡右衛門は国元への道を急いだ。

36 名前:泣くな渡右衛門 2/2[sage] 投稿日:2010/10/30(土) 22:13:28 ID:sK6KKi5p
「念の入った謝辞、かたじけない。そうか、縫殿助はいかぬか。惜しい者を亡くした。」
返された誓紙を押しいただく忠重にも腹が立つばかりの渡右衛門は、そっけなく鈴木家を辞去しようとした。

「確かにお渡しした。では、拙者はこれで。」
「ああ、待て待て。その顔ではお主、父御の言いつけに納得しておらぬな?だがなお主、この件の他に縫殿助から
何か遺言を授かったかな?」
「・・・・・・」

「それはな、縫殿助がお主という立派な倅を持ったがために、『他に思い残す事は無い』という信頼の表れよ。
その証拠にお主の面構え、縫殿助をそのまま若くしたようじゃ。縫殿助が、うらやましい・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「そこで、だ。縫殿助に似たるお主に、わしと縫殿助の『約束』を引き継いでくれたら、幸いじゃ。」
忠重は渡右衛門に、誓紙の中身を見せた。
「これは・・・!心得申した。ぜひ私に父の約束、果たさせて下され!」



明暦4年(1658)、鈴木右近忠重、主君に殉じ切腹。幕府より殉死の禁が出される中、「右近ならば苦しからず」と
特に許されての殉死であり、忠義の臣・鈴木右近は、歴史に名を残した。

その見届け役の名を、木村渡右衛門という。




38 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/30(土) 22:55:18 ID:TH9bBQss
>>35-36
いい話だ
しかし読む途中で黒田親子の場合を思い出して何ともw

39 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 00:51:37 ID:VGJLsiVI
跡継ぎが立派かどうかって本当に大事だ。
親父さん、気持ちよいご臨終です。

40 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 02:05:45 ID:YntaUwbz
>>35ー36
真田太平記の右近もかっこいいけど、史実もいい男だな

46 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 21:01:56 ID:ELZPdfzJ
しかし右近殿は首を掻き切られたとか押し切られたとか・・・
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