186 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/10/31(日) 22:31:45 ID:8l9ek6Ub
きかんしゃやえもん(上)
薩南島津家の家臣に、鎌田弥右衛門という男がいた。『鬼島津』家中にあって大剛の人として知られたが、この男
得物として大きな棒を使い、城への出仕の時も、棒を持ち込んだ。ドス黒いシミのついた棒を持った男が隣にいれば
気持ちの良いものではない。当人に言っても聞かないため、非難は本家筋の家老・鎌田出雲に集中した。
「…という訳で、『アレは、あまりに異様だ』と評判が悪い。即刻、改めるように。」
「何と言われようと、あれは両刀の代わり。手放せませんな。」
「鎌田家の惣領たる、わしの言うことも聞けぬか。そんな勝手を申す不届者を、鎌田家の者と認める訳にはいかぬ。
ただ今より、鎌田家を勘当する。以後、『鎌田』の名字を名乗ること、まかり成らぬ!!」
後世に『名字帯刀御免』という言葉が生まれるように、両刀を携え、家名を名乗って他家に出入りしてこそ武士である。
「お、お待ちを!それでは武士として、やって行けません。その儀ばかりは!」「ならば、棒を持ち歩かぬか?」
「それは…」「では、決まりじゃ。明日より当家に出入りも許さん。」「……………」
翌日、出雲の邸宅に再び弥右衛門がやって来た。「拙者、川上弥右衛門と申す。以後、お見知り置きを!」
「…川上?お主は鎌田もとい、ただの弥右衛門ではないのか?いったい、どういう…」
「実は昨日、あれから城へ行って川上忠兄どのを捕まえまして。『頼みがあります。名字を二、三日お貸し下さい。』
と言ったら、最初は『鎌田家のお主には無用だろう。』と断られましたが、再三頼んだところお許し下さったので、
『では四、五日お借りします。』と言って別れました。」
(殿の側近に、ナニしてくれてんの…てか、さりげなく貸出し日数増えてんじゃん……)
「そんな事で、本日はご挨拶に伺いました。え~、川上弥右衛門!川上弥右衛門をよろしく!」「……………」
五日後は、樺山弥右衛門かも知れない。その五日後は、新納弥右衛門かも。その五日後は、島津弥右衛門かも。
でも非難は鎌田家に来るだろう。
「どうも扱はれぬ者也。(原文ママ)」と出雲もあきらめ、弥右衛門は大手を振るって棒を持ち歩くようになった。
きかんしゃやえもん(上)
薩南島津家の家臣に、鎌田弥右衛門という男がいた。『鬼島津』家中にあって大剛の人として知られたが、この男
得物として大きな棒を使い、城への出仕の時も、棒を持ち込んだ。ドス黒いシミのついた棒を持った男が隣にいれば
気持ちの良いものではない。当人に言っても聞かないため、非難は本家筋の家老・鎌田出雲に集中した。
「…という訳で、『アレは、あまりに異様だ』と評判が悪い。即刻、改めるように。」
「何と言われようと、あれは両刀の代わり。手放せませんな。」
「鎌田家の惣領たる、わしの言うことも聞けぬか。そんな勝手を申す不届者を、鎌田家の者と認める訳にはいかぬ。
ただ今より、鎌田家を勘当する。以後、『鎌田』の名字を名乗ること、まかり成らぬ!!」
後世に『名字帯刀御免』という言葉が生まれるように、両刀を携え、家名を名乗って他家に出入りしてこそ武士である。
「お、お待ちを!それでは武士として、やって行けません。その儀ばかりは!」「ならば、棒を持ち歩かぬか?」
「それは…」「では、決まりじゃ。明日より当家に出入りも許さん。」「……………」
翌日、出雲の邸宅に再び弥右衛門がやって来た。「拙者、川上弥右衛門と申す。以後、お見知り置きを!」
「…川上?お主は鎌田もとい、ただの弥右衛門ではないのか?いったい、どういう…」
「実は昨日、あれから城へ行って川上忠兄どのを捕まえまして。『頼みがあります。名字を二、三日お貸し下さい。』
と言ったら、最初は『鎌田家のお主には無用だろう。』と断られましたが、再三頼んだところお許し下さったので、
『では四、五日お借りします。』と言って別れました。」
(殿の側近に、ナニしてくれてんの…てか、さりげなく貸出し日数増えてんじゃん……)
「そんな事で、本日はご挨拶に伺いました。え~、川上弥右衛門!川上弥右衛門をよろしく!」「……………」
五日後は、樺山弥右衛門かも知れない。その五日後は、新納弥右衛門かも。その五日後は、島津弥右衛門かも。
でも非難は鎌田家に来るだろう。
「どうも扱はれぬ者也。(原文ママ)」と出雲もあきらめ、弥右衛門は大手を振るって棒を持ち歩くようになった。
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