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『天狗の雑説』という事があるもので

2021年01月09日 17:35

833 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2021/01/09(土) 13:36:18.29 ID:uXyU3sPj
小田原陣の時、韮山城を囲んでいた際に、森右近(忠政)殿は味方の人と先を争って、城際まで
竹束を付けられたが、一体誰が言い出したのか、「やがて城中より敵が打ち出る様子である、
皆々旗本に集合して一手になって戦うべし!」と触れられたため、味方の勢は我も我もと後先になって
引き退いた。

その中で若尾弥平次という鉄砲頭は、彼に付けられた二十人の足軽たちに下知した
「私の下知が有るまで、この場所を去ってはならない。もしこの下知に違う者は罪有るべし!」
そう言ったが、みな耳にも入らず、終に残り留まったのは七人だけと成った。

「場所はここを立ち去るべからず。敵が来ると見えれば下知をする。その時鉄砲一撃ちして、その後
私が一番に鑓合わせをする。」と、鑓を取り手ぐすねを引いて居た所、後ろから小声にて
「そこに居られるのは誰か」との声が聞こえた。
「若尾弥平次これに有り。そなたも鑓すべしと思われるのであれば、これへこれへ!」と言って
返り見ると、それは右京という者であった。名字は忘れたので記さない。

その時右京の言った事は、「何とは無しに人々引き退いたので、私も人並みに引いたのだが、あまりに
心もとなく、帰り来て見るに其の方だけが居られた。一体どういうことなのか。」
弥平次これを聞いて「どういう理由でこうなったのかは知らない。しかし、皆々慌てふためいて
引き退くと言っても、私の方には何の使いもなく、まして鉄砲などを預かっている者が、事の実否を
聞き定めずに立ち去るべきではなく、その事を足軽に下知したのだが、臆病者どもにて大方引き退き、
わずかに七人だけが残った。もし敵が出てくるのなら、せめて残った足軽たちに一撃ち撃たせて、
これにて一番に鑓を仕るべし、そなたも鑓を致さんとするのなら、ここに居られよ。」
そういうと、「尤もに候」と、一つ所に加わった。

この右京は大身の鑓を横たえて、弥平次の右側に居た。弥平次はこれを見て「貴殿の鑓の持ちようは、
敵が来ればその鑓に私を躓かせて、自分が一番鑓をしようとする心得と見た。中々おかしき事かな。
ここに留まったのは私一人であり、私の力があってこそ其の方もここに来たのだ。その鑓の持ち様は
侍の作法ではない。きたなし。その鑓引かれよ。」と言った。
右京は「その心得では無いが、鑓を引こう」と引いた。

「それにてこそ侍れ」として、一所に有った所に、森家の家老である各務兵庫(元正)が、前線の様子が
心許ないと、長刀を杖につき来ており、二人の後ろにしばし立ち居て、かれらの先の問答の様子を
つくづくと聞き、「さては聞くに及ぶ若尾の言葉である。」と、後々まで返すがえす感じ入ったという。

その後、城より敵が打ち出ることもなかったので、面々はそれぞれの持ち口へと戻った。
「惣じて陣所においては、『天狗の雑説』という事があるもので、しっかりと、確かに聞き届けないうちは
進退はせぬものである」と、若尾は語った。

彼は十八歳から高名があり、森武蔵守(長可)殿より感状三つ、その他信濃にて森右近殿よりの感状もあり、
されば色々、心がけの事多い人であった。彼は後に作州を去って福島殿に仕え、近年紀伊の御家(徳川頼宣)
に召されて終に病死した。その頃は佐々木善兵衛と名乗っていた。

(備前老人物語)



834 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2021/01/09(土) 14:23:21.22 ID:yK/TwY+e
三河者か
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「さても聞こえし弥平次の」

2010年12月31日 00:01

25 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 21:25:24 ID:qYHr6L2Z
秀吉の小田原攻めに従い、伊豆韮山城の包囲に参加した森忠政の軍が竹束など備えていると、誰が言い出したのか、
「間もなく城から討って出るので、みな本陣へ退いて、戦うべし。」
との噂が流れた。噂を聞いた森家の兵たちは、われ先にと竹束の備えを捨てて退いていった。

「情けなや。先代がご覧になれば、何と言われるか・・・」
味方の体たらくにタメ息をついた森家の家老・各務兵庫助元正は、長刀を杖にして五十路を迎える身を引きずり、
みずから前線に立つべく足を運んだ。

「ん?あれは弥平次か?」
無人と思われた竹束の備えの中に数十人の兵がおり、一人の侍が檄を飛ばしていた。鉄砲頭の若尾弥平次であった。

「下知なくば、ここを去ってはならぬ!下知に従わぬ者は、後で罪に問う!」
檄にも関わらず何人か退いた雑兵もいたが、弥平次の意気は衰えない。
「よいか、城方が来たら時分を見てわしが合図するゆえ、一斉に撃て。その後、わしが一番槍を入れてくれるわ。」
「おーい・・・」
槍をしごき、手に唾して気合を入れる弥平次に、どこからかやって来た同僚の右京が声をかけた。

「何とは無しに、みな退いてしもうた。わしも退こうと思ったが、あまりの心許なさに戻ってみれば弥平次、
おぬしが居るではないか。どうするつもりだ?」
「どうするも何も、他人はどうあれ、わしは『退け』との命を聞いておらん。ましてや、殿より先陣や鉄砲など
預かる身が、事の実否も確かめずに退くわけにはいかぬわい。お前も槍持つ身なら、腹を決めい。」

「その言葉、もっともじゃ。」右京は弥平次の近くに来ると、その横に自分の槍を置いてしゃがみこんだ。
「おい、何じゃそれは!敵が来れば、その槍でわしを転ばし、己が一番槍せんとの心得かっ!!」
「そ、そんなつもりはないっ!」一喝された右京は、あわてて槍を引き上げた。

「うむ、それで良い。戦場では味方といえども気が立っており、些細な事で災難に会いかねん。注意せい。」
「いやあ、すまんすまん。それにしても弥平次、おぬしは本当に動じぬのう。」
「先陣においては『天狗の雑説』と言って、噂によって聞き崩れ・裏崩れを起こす場合がある。
およそ前線を預かる身は、物事を静かに聞き届け、進退すべきものだ。覚えておけい。」

「さても聞こえし弥平次の言葉よ。」
後ろで黙って様子を見ていた元正は、目を細めて微笑み、本陣に帰っていった。

若尾弥平次、十八歳で森長可より感状を授かったのをきっかけに、頭角を現した男だという。




26 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 21:43:39 ID:RNPfTcUl
弥平次は凄いベテランっぽいけど若尾氏は本能寺後の東濃征伐の時の降将なのでまだ20代中盤ぐらいのはずw

27 名前:人間七七四年[] 投稿日:2010/12/30(木) 21:44:21 ID:mmcAw9aP
Coolですな

28 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/12/30(木) 21:55:57 ID:uFPUDKh4
なんとかしてよかがみえもんの話かと思った
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