682 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 16:42:08 ID:hzgxJ0oS
相模の北条氏と安房の里見氏が、海を挟んでにらみ合いをしていた頃の事。
安房水軍はしばしば相模の海岸に押し寄せ、北条氏を悩ませていた。
北条氏側も海岸沿いに番所を連ね、警戒を厳しくするくらいしか取る手がなかった
のである。
そんな感じでピリピリしたムードの中、小雨の降るある日。
小田原近くの入江に、小船が四、五艘ばかり陸地を目指して漕ぎ寄って来るのが
発見された。
「里見軍が来たぞっ!」
「房州水軍だ、逃げろっ!!」
町人達はうろたえ騒ぎ、逃げ出す。
しかし一方では、
「おお、あれが敵の軍船か」
「思ったより小さくね?」
と、浜に押し寄せて見物を始める者達もいた。
この騒動に、近くの番所から出動した高山大膳は群集を掻き分けて波打ち際へと
進み出ると声を上げる。
「おのれ憎き里見の勢め!今すぐ船を漕ぎ寄せ、尋常に勝負いたせ!!」
しかし……
シーーーーーーーーーーーン……
相手はまったくの無反応。
尚も相手の臆病をなじり、勝負を挑む大膳であったが、小船からは何の反応も
返ってこない。
この辺りで漸く、野次馬達も、そして大膳自身も、何かがおかしいと気付き始めた。
「……あの船って」
「フツーの釣り船……じゃねぇの?」
683 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 16:43:14 ID:hzgxJ0oS
そう、軍船にしてはやたら小さな船だと思ったら、実はこれ、ただの釣り船だった
のだ。
最近のピリピリムードに当てられた町人達が船に過剰反応し、野次馬が集まり、騒
動に釣られるように番所から侍が出動し……何が何やら判らない内に大騒動になっ
てしまったため、釣り船の方もキョトンとしたまま、何の反応も返せなかったのである。
(ど、どーしよう……ここまで来て「間違いでした。あれは釣り船です」じゃ収め
られないよなぁ、オレの面目的に……)
真相が判ったとて、大膳にとっては振り上げた拳の下ろす場所が見つかった訳ではない。
どうして良いものか、気まずい沈黙が海岸に漂ったその時、
「そなたら如き、高山様の手を煩わせるまでもない!この一本唐傘を見よ!我こそ
は誓願寺の住職、庭林なるぞ!そなたらの相手は我こそがふさわしい!いざ、参れ!!」
雨の降る海岸、一本の傘を手にした僧侶が大膳の脇に進み出ると、そう声を上げた。
「二本傘」の旗指物を背負った大膳の劣化版を気取って見せたのである。
「確かに敵の侍じゃないなら、高山様より坊さんの出番だよなぁ」
海岸に集まった群衆は、あるいは爆笑、あるいは苦笑しながら、日常生活へと帰っ
て行き、高山大膳も面目を潰す事無く、この話は笑い話として語られるようになっ
た。
この話を聞いた北条氏政は、
「面白い坊主だ。こういう奴が仏法の問答も、面白く、わかりやすく聞かせてくれ
るんだろうな」
とのコメントを残し、庭林は小田原城下で大いに名を上げたのであった。
684 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 18:59:59 ID:BkXJQeM5
坊さん、素晴らしい空気の読みっぷりだなw
686 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 20:58:09 ID:U6fv33hH
釣り船の人はめちゃくちゃ怖かっただろうなぁw
687 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 21:21:58 ID:l4w04jXn
つ 釣られないぞ
相模の北条氏と安房の里見氏が、海を挟んでにらみ合いをしていた頃の事。
安房水軍はしばしば相模の海岸に押し寄せ、北条氏を悩ませていた。
北条氏側も海岸沿いに番所を連ね、警戒を厳しくするくらいしか取る手がなかった
のである。
そんな感じでピリピリしたムードの中、小雨の降るある日。
小田原近くの入江に、小船が四、五艘ばかり陸地を目指して漕ぎ寄って来るのが
発見された。
「里見軍が来たぞっ!」
「房州水軍だ、逃げろっ!!」
町人達はうろたえ騒ぎ、逃げ出す。
しかし一方では、
「おお、あれが敵の軍船か」
「思ったより小さくね?」
と、浜に押し寄せて見物を始める者達もいた。
この騒動に、近くの番所から出動した高山大膳は群集を掻き分けて波打ち際へと
進み出ると声を上げる。
「おのれ憎き里見の勢め!今すぐ船を漕ぎ寄せ、尋常に勝負いたせ!!」
しかし……
シーーーーーーーーーーーン……
相手はまったくの無反応。
尚も相手の臆病をなじり、勝負を挑む大膳であったが、小船からは何の反応も
返ってこない。
この辺りで漸く、野次馬達も、そして大膳自身も、何かがおかしいと気付き始めた。
「……あの船って」
「フツーの釣り船……じゃねぇの?」
683 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 16:43:14 ID:hzgxJ0oS
そう、軍船にしてはやたら小さな船だと思ったら、実はこれ、ただの釣り船だった
のだ。
最近のピリピリムードに当てられた町人達が船に過剰反応し、野次馬が集まり、騒
動に釣られるように番所から侍が出動し……何が何やら判らない内に大騒動になっ
てしまったため、釣り船の方もキョトンとしたまま、何の反応も返せなかったのである。
(ど、どーしよう……ここまで来て「間違いでした。あれは釣り船です」じゃ収め
られないよなぁ、オレの面目的に……)
真相が判ったとて、大膳にとっては振り上げた拳の下ろす場所が見つかった訳ではない。
どうして良いものか、気まずい沈黙が海岸に漂ったその時、
「そなたら如き、高山様の手を煩わせるまでもない!この一本唐傘を見よ!我こそ
は誓願寺の住職、庭林なるぞ!そなたらの相手は我こそがふさわしい!いざ、参れ!!」
雨の降る海岸、一本の傘を手にした僧侶が大膳の脇に進み出ると、そう声を上げた。
「二本傘」の旗指物を背負った大膳の劣化版を気取って見せたのである。
「確かに敵の侍じゃないなら、高山様より坊さんの出番だよなぁ」
海岸に集まった群衆は、あるいは爆笑、あるいは苦笑しながら、日常生活へと帰っ
て行き、高山大膳も面目を潰す事無く、この話は笑い話として語られるようになっ
た。
この話を聞いた北条氏政は、
「面白い坊主だ。こういう奴が仏法の問答も、面白く、わかりやすく聞かせてくれ
るんだろうな」
とのコメントを残し、庭林は小田原城下で大いに名を上げたのであった。
684 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 18:59:59 ID:BkXJQeM5
坊さん、素晴らしい空気の読みっぷりだなw
686 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 20:58:09 ID:U6fv33hH
釣り船の人はめちゃくちゃ怖かっただろうなぁw
687 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/02/10(木) 21:21:58 ID:l4w04jXn
つ 釣られないぞ
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