菖蒲左馬允の妻

2011年11月29日 22:04

213 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/11/29(火) 08:12:33.39 ID:TX26W8wz
ソースは軍記物なので御笑覧くださいな。

天正九年、毛利、吉川家の傘下で勇将だった伯耆の杉原盛重が病死した。
跡を継いだ元盛に、遺産の分け前が少なすぎると恨みを抱いた弟の景盛は、
しばらく後に家中には「元春の上意なり」と言い張って兄を殺し、
まだ幼かった兄の子供たちをも殺してしまった。
やがてこの悪事が露見し、吉川元長の号令によって軍勢に居城を取り囲まれる。

景盛の陰謀に深く関与していた、菖蒲左馬允という男がいる。
敵に囲まれた城中から、この男が姿をくらました。
それを知った菖蒲の妻は、10歳になる嫡男、小次郎に語りかける。

「いいですか、小次郎。
 おまえの父は、景盛公に加担して主君の元盛公を殺し、
 今また景盛公が報いを受けて明日をも知れないお命となり果てると、
 おまえをも捨てて、情けなくも逃げ出してしまいました。
 悪逆の名を末代に残すのみか、臆病の恥までも晒すとは。
 妻としても恨めしく憎らしく思います。
 小次郎、あの大悪人の子として敵に捕らわれ、嘲笑われ、無残に殺されるよりは、
 この母の手にかかって死になさい。母もともに逝きます。
 それともおまえは、あの父と同じように、恥も人目も気にしませんか」

「すべて母上にお任せします」と答える我が子に、
「おまえは、魂は父ではなくこの母に似たようじゃ」と語りかけるや否や、
女は守刀を二度突き刺し、幼い我が子を押し伏せた。

これを見ていた12歳ほどの娘は、母が狂ったのだと思って部屋を駆け出て、
景盛の妻室の居室へと飛び込んで助けを求めた。
人々が駆けつけると、自分の腹に守刀を突き立てている女に取り付き、刀を奪う。
女の命に別状はなかった。

やがて女は、夫の菖蒲が東伯耆にいると聞きつけ、訪ねていった。
菖蒲は天罰が当たったのか、すっかり白髪になり、
眉も鬚も抜け落ちたみすぼらしい姿になっていた。
女は言う。

「あなた、あなた、私はもう死んでしまってもいいと思いましたが、
 あなたに一度会って、子供を捨て、主君を捨て、
 そんな取るに足りない命惜しさに逃げ去ったあなたにこの恨みを伝えてから
 どこぞの淵にでも身を投げようと思い、これまでつらい世に命を永らえてきました。
 今のあなたの有様を見ると、天罰が当たって非人・乞食になったようですねぇ。
 この世にどんな未練があって生きさらばえているのですか。
 あれこそ恥をも人目をも顧みず、仏罰・神罰をも恐れず、
 主君を殺し主君を捨てた邪見放逸の輩ぞと、人々に後ろ指をさされるよりは、
 いっそ自害したらどうですか」

菖蒲は妻の言葉に納得したのか、はたまたひもじさに耐えかねてか、自害した。
女もまた、その刀で自分の身を貫いて絶命した。




214 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/11/29(火) 13:31:28.84 ID:gArV46j1
既婚女性板の通称が鬼女板ってのも納得できる逸話だな

215 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/11/29(火) 14:07:38.15 ID:/GNs7wj9
悪い話でもあるんだけど、この奥さんの清々しさを思うといい話にも見える
やはり武家の妻というか、戦国時代の女性は男と変わらんくらい凛々しいもんだな
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