轟木長右衛門とその妻妾

2012年07月28日 20:58

754 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/27(金) 21:35:47.59 ID:bUdKwb22
轟木長右衛門とその妻妾1/2

陸奥国和賀郡笹間の領主轟木長右衛門は、奥州仕置後の和賀氏没落後、その主人を和賀氏から南部氏に変え、
関ヶ原の際に南部領で起きた岩崎和賀一揆の時も
他の者達が旧主和賀忠親につく中、南部氏に仕えて岩崎城を攻め、その命脈を保ち、安定した生活を送っていた。

この長右衛門にはひとりの愛妾がいた。この妾を、長右衛門はことのほか溺愛していた。
面白くないのが本妻である。最初は我慢もしていたが、次第に嫉妬の気持ちが芽生え
遂に妾を陥れようと画策した。

ある日、本妻は夫を誘って清水観音に参詣した。と、境内の大杉をみると、
その木に釘で打ち留められた髪の元結いがぶら下がっていた。
首をかしげる長右衛門に、本妻は言葉を掛けた。
「これまで何度か申し上げようと思ってはいましたが、女ずれのはしたないことと思われてはと
そのままにしておりました。貴方の妾は、家臣の某と懇ろな仲になって、貴方様のお命を縮めようと謀っています
これ、このようにもとどりを打ち付けて祈念をこらしているよしにございます。ゆめゆめご油断あそばすな」

長右衛門は、この時はただのやきもちから来る言葉だろうと聞き流したが、
本妻はその後も折に触れて妾の行いの疑わしいことを夫に告げ口し続けた。
長右衛門も、何度も聞かされるうちに疑念の心が浮かんできて、それとなく愛妾を疑うようになった。

秋頃のこと、長右衛門は本妻と妾を連れて将軍寺という菩提寺に仏参した。
寺の本堂で誦経が終わり、焼香を終えて別間で休息している時、本妻が耳打ちした。
「妾のたもとになにやら怪しいものが潜められている様子。取り上げてごらんになっては・・・」
妾は呼び寄せられ、長右衛門の言いつけに不審に思いながらも自分のたもとを探ると、一枚の板札が出てきた。
それには墨で「轟木長右衛門」と書かれてあり、その上を何度も踏みつけられた跡がある。

怒った長右衛門は詰問するが、妾は全く覚えのないことで答えられない。
それを見ていた本妻が
「それは言えぬも道理。その板札こそは、そなたがそれが家来の何某と密会するたびに、泥足をもって
踏みつけるといううわさのものに違いない」

それを聞いた長右衛門は烈火のごとく怒った。
「おのれ、よくもこの長右衛門をたばかったな!」
彼は傍らの太刀を抜くと、動転している愛妾を斬りつけた。
「ぎゃあーっ!」
悲鳴を上げて敷居ぎわに愛妾は倒れ伏せる。鮮血はふすまに飛び散り、床を真っ赤に染めた。
思わぬ修羅場に住職も家臣たちも声を飲んだ。


755 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/27(金) 21:36:44.96 ID:bUdKwb22
轟木長右衛門とその妻妾2/2

それから21日後――三七にあたる夜のこと。
その日は天気も良くなかったが、夜にはいって風が吹き出し、ざわざわ落ち着かない様子だった。すると
「ぎゃーっ!」
どこからか大きな悲鳴が聞こえてきた。
書き物をしていた長右衛門が何事かと立ち上がると、吹き込んできた風がろうそくの火を消し、
とたん、血の臭いがあたりに漂った。そしてまた、
「ぎゃーっ!」
と、暗がりから悲鳴が聞こえてきた。
長右衛門も恐ろしくなり、「たれかある、灯りを持て、灯りを――」と狼狽したという。

またその翌日の夜。
長右衛門の本妻が侍女達と雑談をしていた時、侍女の一人が悲鳴を上げた。
月明かりに照らされた障子戸に、ざんばら髪を振り乱した女の影が映っていたのだ。
本妻が意を決して障子を開け放つ! が、人影はない・・・。
「ほっほっほっほっ・・・」
虚空から気味悪い悪い笑い声が降ってきて、生臭い風がさあっと吹いた。

そのまた翌日の夜。その日は雨が降っていた。
本妻とともに眠ろうとした長右衛門が服を脱いでいた時、雨がいっそう強く振ったかと思うと、
部屋が急に薄暗くなって、やがて青白い光が立ち込めた。
「ひいっひいっひいっ・・・」
不気味な笑い声がする。天井を見ると、顔面を血まみれにした愛妾が天井に張り付いて、
口を耳元まで開き、長い髪を振り乱して、恨めしげにふたりを見下ろしている。
長右衛門が床の間の刀掛けに走りよって太刀を握ると、亡霊はすっと消えた。

――以来、亡霊は毎日のように城内に出現した。家臣や侍女達はすっかり怯えてしまい、
口実をもうけて次々に暇を取っては去っていってしまった。

そして秋も終わりの頃。
さすがに長右衛門もすっかりほおの肉が落ち、恐怖と不安でイライラしながら暮らしていた。
城内の静けさが気に触り、彼は太刀を持って妻の部屋まで行くと、本妻の声がする。
「ああ、苦しや。そこを放せ、ええい、放さぬか――!」
長右衛門が障子を開けると、なんとそこには本妻の衣装をまとった愛妾がいて、虚空を睨んでいる。
長右衛門が思わず刀の鯉口を切ると、愛妾の顔はたちまち消えて、本妻の顔が。
「ああ、苦しや。まこと、わらわがそなたを落としいれようと濡れ衣を着せ、夫をたばかったもの。
わらわの奸計よ。ああ、苦しや。こう白状したからには、そこを放せ、放せい――」
妻はそう言いながら床の上を転げまわっていた。長右衛門は呆然と立ち尽くすほかなかった。
その4・5日後、本妻は狂ったままこの世を去った。

そして長右衛門は日夜を問わず亡霊を見るようになった。薬も祈祷も効く事はなかった。
そしてやがて雪が降り始める頃。
長右衛門の目に、妻だけではなく、岩崎の戦いで戦い殺したかつての仲間――和賀氏の何某や何某の首を
見るようになった。彼らは空中から降りてきては床に下りてきて、長右衛門を睨みすえ、
そして小気味よさげに高笑いしては消えていった。

その年も暮れぬうちに長右衛門は死んだ。彼に子はなく轟木氏はここに断絶。
その城館も取り壊され、わずかに土塁が残るだけだという。





757 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/27(金) 22:49:51.38 ID:Na0wy1Uf
暑い夏こそ相応しいちょっと悪い話だね

758 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/07/27(金) 23:40:07.67 ID:/0XdNYsw
鬼武蔵なら気にしないんだろうなw
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