968 名前:1/2[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:20:07.42 ID:g0zxDbvi
豊臣秀吉の時代の事だという
ある男が白昼に人を斬って商家に逃げ込み、そこにわずか8歳の少女が乳母に抱かれていたのを奪い取り、
これを人質にして立て籠もるという事件があった。
商家の者たちは突然の事に皆逃げ出した。この男は内から戸を閉じ少女を膝の上に伏せ置いて、
もし乱入する者が有らば即座にこれを刺し殺すという気色であった。
もとより頑是無い少女であれば、最初は大声で泣き叫んでいたが、やがて声も枯れ果て、
もはや呼吸をするのが精一杯という様相であった。
近辺の者達はその家を七重八重に取り囲んだものの、突入して少女に害が及ぶことを恐れ、
どうすべきかと徒に惑い騒いでいた。
ここに、町与力の間野甚右衛門と言うものがやってきて理由を聞くと、
「ここは私に任せなさい。こういう事は為し様というものがあるのだ」
と言って、男の立て籠もる商家の戸の際まで行き、声を発した
「中の方に言いたいことがありもうす。この戸を少しばかり開けてほしい。但し体が入るほど開けなくて良い。
これは決して貴殿を欺くものではない!どうか騒ぐようなことをしないでほしい!」
男はこれを聞くと、五寸(約15センチ)ばかり戸を開け
「内に入ること、固く無用である!」と、目に角を立て片膝をついて叫んだ。
甚右衛門、これに
「私は決して中に入らない。あなたと話をしたいだけです。」と、その場に座り
刀も下において、戸の間より自分の顔を見せた
「私は間野甚右衛門と申す者です。先ほど貴殿が人を御斬りになられたのは、日頃の宿意からでしょうか、
それともたまたまの喧嘩のためでしょうか?」
「ひ、日頃の宿意からである!」
「ほう。貴殿自ら斬られたものとはいえ、その様に忙しく逃げ入られたのでは、その斬った様子も
よく確認されなかったでしょう。
私はたった今それを見てきたところなのですが、大変良く斬られた刀傷でした。
左の肩先より右の片腹まで、背骨が少し繋がっているばかりでした。
一太刀で死ぬとも思えぬような騒動の中で、一撃で留めまで刺された腕前、感じ入るばかりです。」
甚右衛門、男の腕前をそうほめあげた。
「そ、そうであったか!」
男がまんざらでもない顔をする。すると甚右衛門
「貴殿は誠に、勇気は余りあるほどお持ちですが、知恵が足りません。」
「なんだと!?それはどういう仔細か!?」
969 名前:2/2[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:20:50.02 ID:g0zxDbvi
「あなたの御敵は日頃の宿意のためであったとのこと、ならば定めて常々、これを斬ることを心がけられて
いたのでしょう。そして今日、往来にて行き合われ名乗りかけて斬られました。
白昼の、しかも往来繁多な街中ですから、これを斬った後逃れようとはお考えになっていませんでしたね?
必ず一命を捨てる覚悟で会ったと推測するのですが、いかがでしょうか?」
「そ、そうだ!全く貴殿の言うとおりだ!」
「然らば!貴殿は心中とやっている事が違うではありませんか!
今、その少女を人質に取った事は、貴殿の心を知らぬ者達にとっては、命を惜しんで行った行為だと
考えるでしょう。この家の周囲は既に、人々により十重にも廿重にも取り巻かれておるますれば、
貴殿がたとえ天に翔び地に潜っても、逃れることはできません。
されば、最期は自害なされるか、人と斬死するか、この2つ以外にはありません。
…その少女が、例え宿意あるものの子であったとしても、素より罪なきものですから、これを許すのが
当然です。いわんや、その子はただの商家の子であり、今日のことに何も関係のない者ではありませんか!
それにこのような、何もわからぬ少女を故無く刃にかけるなど、仮に他所でこれを聞けば、
貴殿は痛ましいことだと思われないか!?
これを殺すのは、拾った子猫を殺すようなものである!一体そこに、どんな武士の気概があるというのか!
とても逃れられない道に、少女を人質としたことは、せっかく宿意のものを斬った誉れも虚しくなり、
却って人々より蔑まれ、死後までの武士の無念となるでしょう。」
「そ、それは…!」
「想像するに、貴殿はよもや、汚く一命を惜しんでいるのではありませんね。
人を斬った者が居ると言われて、人々が棒を持って前後を取り囲んだ、そのため、仔細を語る暇もなく
棒に撃たれては恥辱であると思い、先ず暫くその難を避け、その後に尋常に腹を斬って武士の名を失わじと、
そうお考えになったのでしょう。
されども是非無く取り囲まれて、このように騒ぎ立てられてしまい、町人たちにこうだとも言えず、
時間ばかり経って貴殿の存念が達せられない。そのように私は考えました。
さて、そうではありませんか?いかに?いかに!?」
男はこの言葉を聞くやいなや
「そ、その通りだ!我が心情をなんとよく察してくれたものか、かたじけなく思う!」
「しからば!」
甚右衛門はその言葉に付け入った
「その少女を許してあげてください。貴殿が万一、人を斬り足りないというのであれば、こう言っている
私をお斬りなさい。私も素より貴殿に遺恨はありませんし、貴殿もまた私に遺恨がありません。
ですが斬り合いしようというのなら否とは申しません!不肖ながらいつでも、お相手つかまつります。
…よくよく分別なさいませ。」
男、この言葉に
「…さても言われたるものかな。貴殿は実に、世に稀な弁者でござる。」
そう言って膝下の少女を優しく起こし、髪をかき撫で衣の塵を払い、
「私の不心得により、非道なことに、汝の父母にまで心配をかけてしまった。」
男は少女に謝り、これを開放した。
そして甚右衛門を家の中に呼び入れ
「ならば、私は切腹いたす。…貴殿に、我が介錯を頼む。」
そう言って抜きはなっていた血刀を地に突き立てた。甚右衛門も
「天晴勇者よ。潔し。潔し!」
と言いながら戸を開いて中に入り、見事介錯をはたした、とのことである。
間野甚右衛門、立て籠もった武士を説得する。という逸話である
(武士道美譚)
970 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:38:58.62 ID:2FWraWMN
エゴシネーター(交渉人)の見本となるような逸話だな。
971 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:42:18.78 ID:Dy0w92CF
>想像するに、貴殿はよもや、汚く一命を惜しんでいるのではありませんね
ここが秀逸すぎる
追い詰めておいて逃げ道を用意する周到さ
972 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:44:30.96 ID:Dy0w92CF
武士道美譚ぐぐったら国会図書館HPで見れるな
973 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 23:45:50.04 ID:CgbOLxCJ
商人「事件が解決したと思ったら店の中で切腹された・・・死にたい」
974 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 02:25:42.63 ID:o5StGxSk
>>970
エゴシネーター?ネゴシエーター
975 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 03:50:23.04 ID:Eeo9aO87
ハヨシネーター
976 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 08:33:50.29 ID:hxyl9XuJ
ネスゴシーター
977 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 10:23:55.68 ID:faqCkf9Z
ガラシャミーター2
Judgment Day
978 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 10:33:20.96 ID:SgVQVLsq
こええよw確かに死亡フラグだが
979 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 17:59:20.84 ID:u6xowmGR
ヨメガキータ うっきーから
豊臣秀吉の時代の事だという
ある男が白昼に人を斬って商家に逃げ込み、そこにわずか8歳の少女が乳母に抱かれていたのを奪い取り、
これを人質にして立て籠もるという事件があった。
商家の者たちは突然の事に皆逃げ出した。この男は内から戸を閉じ少女を膝の上に伏せ置いて、
もし乱入する者が有らば即座にこれを刺し殺すという気色であった。
もとより頑是無い少女であれば、最初は大声で泣き叫んでいたが、やがて声も枯れ果て、
もはや呼吸をするのが精一杯という様相であった。
近辺の者達はその家を七重八重に取り囲んだものの、突入して少女に害が及ぶことを恐れ、
どうすべきかと徒に惑い騒いでいた。
ここに、町与力の間野甚右衛門と言うものがやってきて理由を聞くと、
「ここは私に任せなさい。こういう事は為し様というものがあるのだ」
と言って、男の立て籠もる商家の戸の際まで行き、声を発した
「中の方に言いたいことがありもうす。この戸を少しばかり開けてほしい。但し体が入るほど開けなくて良い。
これは決して貴殿を欺くものではない!どうか騒ぐようなことをしないでほしい!」
男はこれを聞くと、五寸(約15センチ)ばかり戸を開け
「内に入ること、固く無用である!」と、目に角を立て片膝をついて叫んだ。
甚右衛門、これに
「私は決して中に入らない。あなたと話をしたいだけです。」と、その場に座り
刀も下において、戸の間より自分の顔を見せた
「私は間野甚右衛門と申す者です。先ほど貴殿が人を御斬りになられたのは、日頃の宿意からでしょうか、
それともたまたまの喧嘩のためでしょうか?」
「ひ、日頃の宿意からである!」
「ほう。貴殿自ら斬られたものとはいえ、その様に忙しく逃げ入られたのでは、その斬った様子も
よく確認されなかったでしょう。
私はたった今それを見てきたところなのですが、大変良く斬られた刀傷でした。
左の肩先より右の片腹まで、背骨が少し繋がっているばかりでした。
一太刀で死ぬとも思えぬような騒動の中で、一撃で留めまで刺された腕前、感じ入るばかりです。」
甚右衛門、男の腕前をそうほめあげた。
「そ、そうであったか!」
男がまんざらでもない顔をする。すると甚右衛門
「貴殿は誠に、勇気は余りあるほどお持ちですが、知恵が足りません。」
「なんだと!?それはどういう仔細か!?」
969 名前:2/2[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:20:50.02 ID:g0zxDbvi
「あなたの御敵は日頃の宿意のためであったとのこと、ならば定めて常々、これを斬ることを心がけられて
いたのでしょう。そして今日、往来にて行き合われ名乗りかけて斬られました。
白昼の、しかも往来繁多な街中ですから、これを斬った後逃れようとはお考えになっていませんでしたね?
必ず一命を捨てる覚悟で会ったと推測するのですが、いかがでしょうか?」
「そ、そうだ!全く貴殿の言うとおりだ!」
「然らば!貴殿は心中とやっている事が違うではありませんか!
今、その少女を人質に取った事は、貴殿の心を知らぬ者達にとっては、命を惜しんで行った行為だと
考えるでしょう。この家の周囲は既に、人々により十重にも廿重にも取り巻かれておるますれば、
貴殿がたとえ天に翔び地に潜っても、逃れることはできません。
されば、最期は自害なされるか、人と斬死するか、この2つ以外にはありません。
…その少女が、例え宿意あるものの子であったとしても、素より罪なきものですから、これを許すのが
当然です。いわんや、その子はただの商家の子であり、今日のことに何も関係のない者ではありませんか!
それにこのような、何もわからぬ少女を故無く刃にかけるなど、仮に他所でこれを聞けば、
貴殿は痛ましいことだと思われないか!?
これを殺すのは、拾った子猫を殺すようなものである!一体そこに、どんな武士の気概があるというのか!
とても逃れられない道に、少女を人質としたことは、せっかく宿意のものを斬った誉れも虚しくなり、
却って人々より蔑まれ、死後までの武士の無念となるでしょう。」
「そ、それは…!」
「想像するに、貴殿はよもや、汚く一命を惜しんでいるのではありませんね。
人を斬った者が居ると言われて、人々が棒を持って前後を取り囲んだ、そのため、仔細を語る暇もなく
棒に撃たれては恥辱であると思い、先ず暫くその難を避け、その後に尋常に腹を斬って武士の名を失わじと、
そうお考えになったのでしょう。
されども是非無く取り囲まれて、このように騒ぎ立てられてしまい、町人たちにこうだとも言えず、
時間ばかり経って貴殿の存念が達せられない。そのように私は考えました。
さて、そうではありませんか?いかに?いかに!?」
男はこの言葉を聞くやいなや
「そ、その通りだ!我が心情をなんとよく察してくれたものか、かたじけなく思う!」
「しからば!」
甚右衛門はその言葉に付け入った
「その少女を許してあげてください。貴殿が万一、人を斬り足りないというのであれば、こう言っている
私をお斬りなさい。私も素より貴殿に遺恨はありませんし、貴殿もまた私に遺恨がありません。
ですが斬り合いしようというのなら否とは申しません!不肖ながらいつでも、お相手つかまつります。
…よくよく分別なさいませ。」
男、この言葉に
「…さても言われたるものかな。貴殿は実に、世に稀な弁者でござる。」
そう言って膝下の少女を優しく起こし、髪をかき撫で衣の塵を払い、
「私の不心得により、非道なことに、汝の父母にまで心配をかけてしまった。」
男は少女に謝り、これを開放した。
そして甚右衛門を家の中に呼び入れ
「ならば、私は切腹いたす。…貴殿に、我が介錯を頼む。」
そう言って抜きはなっていた血刀を地に突き立てた。甚右衛門も
「天晴勇者よ。潔し。潔し!」
と言いながら戸を開いて中に入り、見事介錯をはたした、とのことである。
間野甚右衛門、立て籠もった武士を説得する。という逸話である
(武士道美譚)
970 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:38:58.62 ID:2FWraWMN
エゴシネーター(交渉人)の見本となるような逸話だな。
971 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:42:18.78 ID:Dy0w92CF
>想像するに、貴殿はよもや、汚く一命を惜しんでいるのではありませんね
ここが秀逸すぎる
追い詰めておいて逃げ道を用意する周到さ
972 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 20:44:30.96 ID:Dy0w92CF
武士道美譚ぐぐったら国会図書館HPで見れるな
973 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/17(水) 23:45:50.04 ID:CgbOLxCJ
商人「事件が解決したと思ったら店の中で切腹された・・・死にたい」
974 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 02:25:42.63 ID:o5StGxSk
>>970
エゴシネーター?ネゴシエーター
975 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 03:50:23.04 ID:Eeo9aO87
ハヨシネーター
976 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 08:33:50.29 ID:hxyl9XuJ
ネスゴシーター
977 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 10:23:55.68 ID:faqCkf9Z
ガラシャミーター2
Judgment Day
978 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 10:33:20.96 ID:SgVQVLsq
こええよw確かに死亡フラグだが
979 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2012/10/18(木) 17:59:20.84 ID:u6xowmGR
ヨメガキータ うっきーから
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