この瓢箪こそ賜るべきもの

2017年10月10日 10:19

295 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/10/09(月) 23:19:55.75 ID:6zdH1xbb
丹羽長重の将、江口三郎衛門の従者に出口藤蔵という者があった。
彼は剛勇にして戦功も少なくなかったが、傲岸不遜な性格のためはかばかしい所領を得ず、
齢既に60を過ぎていたが、録僅かに200石であった。

慶長5年、前田利長が大聖寺城を攻め、これを下して凱旋する時、丹羽長重は兵を出してこれを追撃し、
浅井山下にて戦った。
出口藤蔵はこの時後軍にあったが、「吾が畢生の功名を立てるべきは今日にあり!」と、まっしぐらに
敵陣に駆け入って縦横自在になぎ倒し、遂に敵将を斃してその頸を取り去ろうとした所、そこに敵兵
15,6騎駆け集まってきた。藤蔵は彼らの攻撃をとっさに防いだが、彼の斃した敵将の頸は奪い去られた。

この時、この戦場に藤蔵の妻が、半白の髪を後ろに結い上げ、手織りの麻衣をかいがいしく引き掲げ、
腰には短刀を帯び手には瓢箪を持って、足早に歩み来るのに彼は気がついた。

「あわれ我が妻、我に酒を与えん為に敵兵の中を健気にも来たれるものか」

藤蔵は両手を上げて差し招き「出口藤蔵はここに在る!早く来たりて酒を飲ませよ。見まごう事なかれ!」と
声を限りに呼んだ。
ところが妻はこれに応えず、逆に本陣の方に向かって行こうとしたため。傍らに居た兵卒が彼女を呼び止めた
「出口氏があのように呼んでいるのに、何故応えないのか?」

妻は言った
「いいえ、頸わずかに一つばかり、しかもそれを取り返されて追うことも知らぬ男に、私の夫だからといって
どうして言葉を交えることが出来るでしょうか?この酒は、主君に奉らんとわざわざ持ってきた物です。
卑怯者に振る舞うために持ってきたわけではない!」

そう言い捨てて本陣へと向かった。
この言葉を聞いた藤蔵は大いに感奮し、逸足出してかの首級を奪い去った一隊に追いつき火花をちらして
戦闘し、四方八面に追い捲り再び首級を取り返して、山下の本陣へと戻った。
この時彼の主人である江口は、藤蔵の妻が酒を持ってきたのを喜び、副将の南部右衛門と共に
瓢箪の酒を傾けていたが、藤蔵が首級を携えて来たのを見て大いに喜び、
「お前もこの酒を呑むべし」
と言ったのを、藤蔵の妻は傍らで止め

「その酒は、この瓢箪こそ賜るべきものであり、藤蔵が飲むべき理由はありません。
何故ならその首級を取り戻したのはこの瓢箪であり、藤蔵ではありません。」

これには藤蔵も笑いだし
「このババア、またしても悪口を申し出したり。せっかくの勲功も汝のために無駄骨折となったわ」

このやり取りに、陣中で笑い転げぬものはいなかった。

(今古雅談)

関連
酒瓢箪の仕業
江口三郎右衛門の家来出口とその妻、酒と泪と男と女・いい話



298 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/10/10(火) 19:56:05.70 ID:fEscj1Be
こんな女絶対結婚したくねえ

299 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/10/10(火) 20:33:34.23 ID:o40fN3zB
大人しい女性ならともかく何十年と連れ添っていればたいていはそうなる

300 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/10/10(火) 20:57:37.46 ID:k1cXf0Y7
俺の嫁だったら絶対家で餅食ってるぞ
なんだかんだ情があるよこの夫婦

301 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/10/10(火) 23:36:54.30 ID:LIJlKtSs
詰まらせて死ねばいいのに

302 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/10/11(水) 11:32:31.80 ID:LNFCsoX1
戦陣に来るのはまあ無いと言えないが、戦場の最前線に酒持ってくるのはこの時代でも凄い
スポンサーサイト

が、江口石見という者は

2017年01月10日 17:47

500 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2017/01/10(火) 04:28:01.89 ID:XIXVpzdu
 人の禍福は決まっているという事は、珍しくない事である。
が、江口石見(正吉)という者は、さしたる場も聞き及んでもなく、徳が有る人でもない。
されども、幸運な生まれつきなので丹羽五郎左衛門(長重)について万石を領した。
朝倉能登は首供養を三回もした武功の者であるが、北条氏康のもとで五百石を領したとか。

 茶臼と石臼の替わりがあるように、世間で言う福耳というものがあるのだろうか。
これを見て必ず羨ましがってはならない。
自分は自分で生まれ持ったものがあり、ふさわしくない事を願い無理に利を得れば滅亡することも早くなるのである。


『武士としては』

江口さんにやたら厳しい



酒瓢箪の仕業

2015年04月05日 14:16

808 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2015/04/05(日) 04:49:32.80 ID:33Db5drP
 江口三郎左衛門正吉の家人に出口某という者がいた。
この者は元来丹羽長秀の旗指であり、度々の手柄を立てていたが、ひどい無法人であったので取り立てもされていなかったところを、
江口が申し請けて、二百石の所領を与えて召し置いたのである。
 
 浅井畷の戦いのさい、真っ先に進み、思う様に戦って、敵一人を切り伏せ、首を取ったが、六十余歳の男であるので、
息切れをして休んでいると、そこに雑兵十四、五人が駆け寄って、何者かが理不尽にも首級を奪ってしまった。
 またこの出口の女房という者は似た者を友とする習いのとおり、甲斐甲斐しい女であった。
糟毛の髪を唐輪曲げで結い、染帷子に上帯し、酒瓢箪と茶の湯を左右に持って、江口のいる陣所を目指して、敵の中を通り行く。
遅れて引き上げる金沢勢が田のあぜ道の傍らに芝居して休んでいたが、この女房に向かって、
「姥御前は、何を手に持って、どこへ行きなさるのか。」
と問うと、
「そのことでございますが、向かいの山上に陣されている、江口殿とは我らが主君でございます。
今朝からの合戦に、さぞやお疲れなさっていると思ったので、酒を持っていこうと参ったのでございます。」
と答えた。出口はこれをみつけて大喜びし、
「それがしはここにいるぞ。」
と指し招いた。しかし女房はこれを見やりもせずに通り行く。敵も是を見て、
「どうなされたのですか姥御前、あの田の畔に休んでいる武者が呼んでいますよ。」
と言うと、
「案の定、あの男は我が夫です。殿が山上にいらっしゃるのに、首の一つも取なさいよ。
昼寝するくたびれ男に、酒を飲ませても無駄でございます。」
となんでもない体で、山にたどり着いて登り、
「ご酒宴に参りました。」
と件の酒を差し出す。江口は是を感じ、手先が遮って見えないほどの盃を取りふるまおうとしたところに、
南部南無右衛門は江口の寄子であったので、助勢しようと来ていたのだが、
江口に劣らぬ上戸で、指し受けて飲んでると、
酒はあったが、盃を流せる流れもなく、南無右衛門が一滴も残さず飲みつくしてしまい、残りは喉が渇いたままであった。
 出口は、女房にすげなく言われて、
「ならば、首を持参し、首を肴にして酒を呑もう。」
と、太刀を打ち振るい回して、また首を取り提げて、浅井山の陣へ参った。
「姥よ、是を見よ」
と、首級を投げ出す。女房は打ち笑って、
「その首はあなたの高名によるものではなく、この酒瓢箪の仕業と申すべきでしょうよ。」
と瓢箪を逆さに振って見せれば、出口は頭を垂れて、
「おまえに誑されて、アダ骨折ったよ。」
と言うと、江口も、南部も笑ったというそうだ。
(小松軍記)