828 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2014/03/27(木) 20:26:18.22 ID:l7W8CKTH
山名金吾入道宗全は、かつての大乱(応仁の乱)の頃、ある大臣家に参り、現在は乱世であるので
諸人はこれに苦しんでいる、などと様々に物語していた時に、この大臣は古くからの例を引いて、
様々にいかにも賢く話をした。
山名宗全は猛々しく勇る者であったので、これに臆する気配もなく、言った
「あなたが仰ることは一応は理解できますが、そのために過去の例を引くのは、宜しくありません。
およそ、例という言葉を、今後は時という文字に変えて心得られるべきです。
世の中の一切のことは昔の例に任せて、何かを決行するのだ、ということはこの宗全も少しは知っております。
雲の上の御沙汰も、伏して考えますに、勿論そのようになっているでしょう。
しかし、この日本国が神代の時代から、天位相続いたことを貴いとするならば、朝廷が分裂した
建武元年からは、みな法を正し改めなければなりません。
憚りながら、あなたがもし、朝廷の礼節の儀式を勤められる時、いにしえ、大極殿のそこそこで
何々の法令有りという例を用いた場合、後代、その殿が滅びてしまえば、是非無く別の殿で行わなければ
ならなくなります。またその別殿も時代を経るうちに後年亡失してしまえば、その時に作った例も
無駄になってしまうでしょう。
おおよそ例というものは、その時の例でしかありません。
大法不易と言い、政道は過去の例を引いて行うべきですが、その他のことは、些かも例を引くべきだとは
思えません。
一般に、公家の人々は例に馴染んで時を知らないために、あるいは衰微して家門乏しくなり、あるいは官位だけを
望み競って、その智節を言わず、そのようにして終に武家に辱められ、天下を奪われ、もはや武家に媚をなす
始末です。
もし今、古来の例を適応するのなら、この宗全のごとき匹夫は、あなたに対してこのように、同輩として
会話することが出来るでしょうか?このような状況は、一体いつの時代の例を引いたのでしょうか?
これは例ではありません、時というものです。
私が今言ったのはは恐れ多いことです。ですがこれより後世に、私よりもさらに悪しき者達が
出てこないとも限りません。その時の状況次第では、その者にも過分の媚をなされる事でしょう。
今より後は、夢々以って、心なき戎に向かって、自分たちの例を語るべきではありません。
もし時を知っておられるのなら、我が身は不肖では有りますが、この宗全が働きを以って、
尊主君公を扶持し奉るでしょう。」
このように苦々しく言い放ったので、かの大臣も閉口し、初めは興のある物語であったのに、
いま徒になってしまったと、後で伝え聞いたところである。
さて、この話は是であろうか、否であろうか。
(塵塚物語)
有名な山名宗全の、「例ではなく時」の逸話の全文である。
山名金吾入道宗全は、かつての大乱(応仁の乱)の頃、ある大臣家に参り、現在は乱世であるので
諸人はこれに苦しんでいる、などと様々に物語していた時に、この大臣は古くからの例を引いて、
様々にいかにも賢く話をした。
山名宗全は猛々しく勇る者であったので、これに臆する気配もなく、言った
「あなたが仰ることは一応は理解できますが、そのために過去の例を引くのは、宜しくありません。
およそ、例という言葉を、今後は時という文字に変えて心得られるべきです。
世の中の一切のことは昔の例に任せて、何かを決行するのだ、ということはこの宗全も少しは知っております。
雲の上の御沙汰も、伏して考えますに、勿論そのようになっているでしょう。
しかし、この日本国が神代の時代から、天位相続いたことを貴いとするならば、朝廷が分裂した
建武元年からは、みな法を正し改めなければなりません。
憚りながら、あなたがもし、朝廷の礼節の儀式を勤められる時、いにしえ、大極殿のそこそこで
何々の法令有りという例を用いた場合、後代、その殿が滅びてしまえば、是非無く別の殿で行わなければ
ならなくなります。またその別殿も時代を経るうちに後年亡失してしまえば、その時に作った例も
無駄になってしまうでしょう。
おおよそ例というものは、その時の例でしかありません。
大法不易と言い、政道は過去の例を引いて行うべきですが、その他のことは、些かも例を引くべきだとは
思えません。
一般に、公家の人々は例に馴染んで時を知らないために、あるいは衰微して家門乏しくなり、あるいは官位だけを
望み競って、その智節を言わず、そのようにして終に武家に辱められ、天下を奪われ、もはや武家に媚をなす
始末です。
もし今、古来の例を適応するのなら、この宗全のごとき匹夫は、あなたに対してこのように、同輩として
会話することが出来るでしょうか?このような状況は、一体いつの時代の例を引いたのでしょうか?
これは例ではありません、時というものです。
私が今言ったのはは恐れ多いことです。ですがこれより後世に、私よりもさらに悪しき者達が
出てこないとも限りません。その時の状況次第では、その者にも過分の媚をなされる事でしょう。
今より後は、夢々以って、心なき戎に向かって、自分たちの例を語るべきではありません。
もし時を知っておられるのなら、我が身は不肖では有りますが、この宗全が働きを以って、
尊主君公を扶持し奉るでしょう。」
このように苦々しく言い放ったので、かの大臣も閉口し、初めは興のある物語であったのに、
いま徒になってしまったと、後で伝え聞いたところである。
さて、この話は是であろうか、否であろうか。
(塵塚物語)
有名な山名宗全の、「例ではなく時」の逸話の全文である。
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