8 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2022/02/04(金) 17:44:41.82 ID:kPkf+ZGV
朝野雑載より毛利鎮実とその娘
永禄の頃、大友宗麟は筑前国午見の城を毛利兵部少輔鎮実に預けた。
天正七年、秋月の使いが「こちらに味方して欲しい、その場合は人質を出してもらいたい」と申し渡してきた。
鎮実は味方する気などなかったが、断ると龍造寺とともに秋月が攻めてくると考えたため、人質を出し、偽りの和議をし、その後に人質を取り返そうと考えた。
鎮実は十二歳の娘に「汝、幼少なれどもよく聞け。秋月種実より我々に人質を出すべしとの使い来る。
今彼が心にそむかば、この城に攻め来るべし。しからば一族皆滅び、汝も殺さるべし。
ただいま質を出せば城を敵に取られず、末までも無事なり。しかるゆえ汝を質に出すなり。
さありとても行く末、宗麟公へ逆心して、秋月と一味することはおもいよらず。
しからば後に必ず敵のために殺されん。その沙汰あらば人手にかからず自害すべし」
といい含め、脇差を渡して
「汝が捨てん命はお屋形様のため、または父が忠義の心ゆえと思うべし」と言い聞かせる。
そのとき母も涙をおさえて
母「高きも卑きも子を疎に思うはなかれども、今父のおおせのごとく、汝が命にかえても屋形さまに御敵はなさるまじ。
たとい娘の命を惜しみ、謀叛人となりても、父の冥加尽きてよきことさらにあるまじ。
父の家ほろびては汝が身にもや如何にしかるべきことはあるじ。
ただ偏に君に命を奉り、父の名をくださじと思いきらば、天の恵みありて命も助かり、父ももろともにさかゆべし」
娘、涙の下より申しけるは
「御心やすく思い候え。我が命は父に参らせ候。
城をよくお保ち、屋形様へ忠義の御奉公なされ候え。娘の命を惜しみ、御未練の心持ちあるべからず。
今かようのこと候わずば、我何としても屋形様の御為、または父の御為にならん」
と言って、涙をそれ以上は流さなかった。
鎮実は笑って「汝幼少といえども、志を感じいりたるぞ」と言って使者をつけて秋月に娘を送った。
しばらくしてのち、御手洗五郎三郎という覚えのある者が魚商人に扮し、魚の腹の中に鎮実の書状を入れて娘の局に遣わし、
「八月二十七日の夜に搦手より忍び入って盗み出す」と約し、その日に難なく娘を盗み出した。
のちに娘は坂本十郎の妻になったという。
宗麟は御手洗の功績を賞したということだ。
朝野雑載より毛利鎮実とその娘
永禄の頃、大友宗麟は筑前国午見の城を毛利兵部少輔鎮実に預けた。
天正七年、秋月の使いが「こちらに味方して欲しい、その場合は人質を出してもらいたい」と申し渡してきた。
鎮実は味方する気などなかったが、断ると龍造寺とともに秋月が攻めてくると考えたため、人質を出し、偽りの和議をし、その後に人質を取り返そうと考えた。
鎮実は十二歳の娘に「汝、幼少なれどもよく聞け。秋月種実より我々に人質を出すべしとの使い来る。
今彼が心にそむかば、この城に攻め来るべし。しからば一族皆滅び、汝も殺さるべし。
ただいま質を出せば城を敵に取られず、末までも無事なり。しかるゆえ汝を質に出すなり。
さありとても行く末、宗麟公へ逆心して、秋月と一味することはおもいよらず。
しからば後に必ず敵のために殺されん。その沙汰あらば人手にかからず自害すべし」
といい含め、脇差を渡して
「汝が捨てん命はお屋形様のため、または父が忠義の心ゆえと思うべし」と言い聞かせる。
そのとき母も涙をおさえて
母「高きも卑きも子を疎に思うはなかれども、今父のおおせのごとく、汝が命にかえても屋形さまに御敵はなさるまじ。
たとい娘の命を惜しみ、謀叛人となりても、父の冥加尽きてよきことさらにあるまじ。
父の家ほろびては汝が身にもや如何にしかるべきことはあるじ。
ただ偏に君に命を奉り、父の名をくださじと思いきらば、天の恵みありて命も助かり、父ももろともにさかゆべし」
娘、涙の下より申しけるは
「御心やすく思い候え。我が命は父に参らせ候。
城をよくお保ち、屋形様へ忠義の御奉公なされ候え。娘の命を惜しみ、御未練の心持ちあるべからず。
今かようのこと候わずば、我何としても屋形様の御為、または父の御為にならん」
と言って、涙をそれ以上は流さなかった。
鎮実は笑って「汝幼少といえども、志を感じいりたるぞ」と言って使者をつけて秋月に娘を送った。
しばらくしてのち、御手洗五郎三郎という覚えのある者が魚商人に扮し、魚の腹の中に鎮実の書状を入れて娘の局に遣わし、
「八月二十七日の夜に搦手より忍び入って盗み出す」と約し、その日に難なく娘を盗み出した。
のちに娘は坂本十郎の妻になったという。
宗麟は御手洗の功績を賞したということだ。
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