355 名前:男は黙って…(一)[sage] 投稿日:2009/06/10(水) 10:59:40 ID:unU+lH2q
小田原攻めの功で大名になった加藤嘉明が新しく召抱えた侍の中に、無口な男がいた。
地味な男で、織田信雄に殺された三家老の一人、岡田長門守に仕えていたという事以外
家中の誰も彼の人となりを知らなかった。
ある時、加藤家の者が連れ立って熱田へ参拝した際、徳川家の一行と同じ船に乗った。
しばらくすると、徳川家臣の方から話しかけて来た。
「失礼、加藤左馬介殿のご家来衆とお見受けしたが?」
「いかにも。」
「おお、やはり!では、ご家中に須藤太左衛門というお人は、おられるかな?」
「そんな名の者がおった気はするが、それが何か?」
「ナニかも何も当家では、須藤殿を鬼神のように言っておりますぞ!?
かつて当家は、ここから程近い星崎城を攻めた事がござるが、その時の城方の一番槍が
須藤殿でござった。
しかもその後、立て続けに三人と槍を合わせ、三人目は堀へ突き落とす武者振り。
二人目に槍を合わせた鈴木与八郎などは、現在その功で出世しているほどですぞ。」
「それはおかしい!!」
加藤家の者は、みな驚いた。大声を上げて前に進み出たのは、あの無口な男だった。
「その鈴木殿とやら、槍を合わせた際、口臭が殊の外悪うござった。
あのような身だしなみ悪きお人、とても高禄を取ること、成りますまい。」
「そう、それそれ!鈴木は筋目正しき者なれど、日頃だらしないと評判でしてなぁ。」
「一度に三人の相手をした上、敵の口臭にまで気づく余裕を保ち、それを誇らぬとは…」
加藤家で静かな勇士・須藤太左衛門を称えぬ者は無かったという。
小田原攻めの功で大名になった加藤嘉明が新しく召抱えた侍の中に、無口な男がいた。
地味な男で、織田信雄に殺された三家老の一人、岡田長門守に仕えていたという事以外
家中の誰も彼の人となりを知らなかった。
ある時、加藤家の者が連れ立って熱田へ参拝した際、徳川家の一行と同じ船に乗った。
しばらくすると、徳川家臣の方から話しかけて来た。
「失礼、加藤左馬介殿のご家来衆とお見受けしたが?」
「いかにも。」
「おお、やはり!では、ご家中に須藤太左衛門というお人は、おられるかな?」
「そんな名の者がおった気はするが、それが何か?」
「ナニかも何も当家では、須藤殿を鬼神のように言っておりますぞ!?
かつて当家は、ここから程近い星崎城を攻めた事がござるが、その時の城方の一番槍が
須藤殿でござった。
しかもその後、立て続けに三人と槍を合わせ、三人目は堀へ突き落とす武者振り。
二人目に槍を合わせた鈴木与八郎などは、現在その功で出世しているほどですぞ。」
「それはおかしい!!」
加藤家の者は、みな驚いた。大声を上げて前に進み出たのは、あの無口な男だった。
「その鈴木殿とやら、槍を合わせた際、口臭が殊の外悪うござった。
あのような身だしなみ悪きお人、とても高禄を取ること、成りますまい。」
「そう、それそれ!鈴木は筋目正しき者なれど、日頃だらしないと評判でしてなぁ。」
「一度に三人の相手をした上、敵の口臭にまで気づく余裕を保ち、それを誇らぬとは…」
加藤家で静かな勇士・須藤太左衛門を称えぬ者は無かったという。
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