97 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2020/05/30(土) 19:11:42.69 ID:GvcTHadk
(桶狭間の戦いの頃)
かように義元(今川義元)勝利の威勢日々強くなりけれども、不思議の事々も多かった。
まず、今川家には往古より“真範公”という出家の亡霊がいた。国主に凶事ある時は出現すると申し
伝えた。しかるに今回、義元が駿府を打ち立ち給うところで、かの真範の亡霊がまさしく阿辺川の
ほとりに現れたのを見た人が多かった。
また駿州の鎮守総社大明神は霊験無双の神なり。かの社の山の中に白狐の奇怪あり。いつもの白狐
を所の者どもは「神の遣わし者なり」と言ったが、その白狐の胸おのずから裂け破れて、自ら死し
て社壇にありけり。
また花倉といって義元の兄弟(玄広恵探)の死霊あり。かの花倉はうつつに出でて、義元にまみえ
来たる。義元はこの時、枕元に立て置いた松倉郷の刀を抜いて切り払い給えば花倉は飛び上がって
「汝の運命尽きたることを告げんがために来た」と言う。
義元もさすがに強き大将なれば少しも騒がず、はったと睨んで「汝は我が怨敵なり。何ぞ我に吉凶
を告げん。ただ我を悩まさんがために来たのであろう」と宣えば、花倉また言うには「汝はもっと
も怨みあれども、今川の家運尽きんこと甚だもって悲しければ、今まみえ来たる」と言い捨て、掻
き消すように失い果てた。
かように怪異ひとかたならず、未然に凶事を現したのは不思議なりし事々である。
――『織田軍記(総見記)』
(桶狭間の戦いの頃)
かように義元(今川義元)勝利の威勢日々強くなりけれども、不思議の事々も多かった。
まず、今川家には往古より“真範公”という出家の亡霊がいた。国主に凶事ある時は出現すると申し
伝えた。しかるに今回、義元が駿府を打ち立ち給うところで、かの真範の亡霊がまさしく阿辺川の
ほとりに現れたのを見た人が多かった。
また駿州の鎮守総社大明神は霊験無双の神なり。かの社の山の中に白狐の奇怪あり。いつもの白狐
を所の者どもは「神の遣わし者なり」と言ったが、その白狐の胸おのずから裂け破れて、自ら死し
て社壇にありけり。
また花倉といって義元の兄弟(玄広恵探)の死霊あり。かの花倉はうつつに出でて、義元にまみえ
来たる。義元はこの時、枕元に立て置いた松倉郷の刀を抜いて切り払い給えば花倉は飛び上がって
「汝の運命尽きたることを告げんがために来た」と言う。
義元もさすがに強き大将なれば少しも騒がず、はったと睨んで「汝は我が怨敵なり。何ぞ我に吉凶
を告げん。ただ我を悩まさんがために来たのであろう」と宣えば、花倉また言うには「汝はもっと
も怨みあれども、今川の家運尽きんこと甚だもって悲しければ、今まみえ来たる」と言い捨て、掻
き消すように失い果てた。
かように怪異ひとかたならず、未然に凶事を現したのは不思議なりし事々である。
――『織田軍記(総見記)』
スポンサーサイト
コメント
人間七七四年 | URL | -
凶兆の是非はともかく義元を止めに出てくる恵探は切なく格好良いと思う
( 2020年05月31日 17:44 )
人間七七四年 | URL | -
松倉郷って初めて聞いたけど凄い名物なんだな
義元と言えば左文字が有名だけどそれ以上かも
( 2020年06月01日 15:21 )
人間七七四年 | URL | -
※2
南北朝時代の越中国新川郡松倉郷の刀工、郷義弘のことだろうね。
今では「郷とおばけは見たことがない」とまで言われる幻の郷義弘だけど、この時期だと普通に実戦に使う刀なのか。
( 2020年06月01日 19:42 )
人間七七四年 | URL | -
※3
現存してれば間違いなく国宝か重文クラスですな。
加賀前田氏が蔵していたらしいが散逸してしまったようで非常にもったいない。
( 2020年06月02日 00:50 )
人間七七四年 | URL | -
明智秀満も坂本城で自刃する時、光秀の名物を目録まで作って寄せ手に渡したけど郷義弘の脇差だけは最後を共にしている
寄せ手が「郷義弘の脇差が無いのはどうしてか?」とワザワザ聞いたぐらいだし、残っていたら国宝間違いなしの業物だったんだろうな
( 2020年06月02日 11:58 )
人間七七四年 | URL | 7Vwe54W6
加賀の前田家は終戦時に米軍に略奪されて、蔵刀が幾つも紛失しているそうなので、その時に「松倉郷」も?
幕末までは確認されたと言うので、明治以降に喪われたのかも知れませぬが。
( 2020年06月05日 02:33 [Edit] )
コメントの投稿