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姥捨山神医の清談

2021年11月21日 16:01

816 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2021/11/20(土) 20:05:01.02 ID:SFSJQDUZ
1902年出版、小松帯刀編「永田徳本翁伝」(永田徳本を顕彰した本)より「姥捨山神医の清談」
小松帯刀といっても薩摩家老ではなく(そちらは明治初めに死んでるし)代々信州の漢方医の家系らしい
この話自体は「寛永宮本武蔵伝」のような講談の一部のようだが信州では伝説扱いされていたようなので投稿
(なお「世界人物逸話大事典」でも永田徳本の逸話として紹介されている)

寛永年間に当代の英傑、松井民次郎平茂仲が兄の仇討ちをしようと諸国を経めぐる中で、ふと信州姥捨山の名月を見ようと思い立ち登山。
そこへ出羽で以前見かけた大猿が来たため、なんだろうと大猿の案内する跡をつけると庵があり、中から七十くらい
(徳本は武田信虎に仕えたとされるためこの頃は100歳以上。なお享年118で信州で没したとされる。)の老翁が現れた。
老翁「あなたは羽州の松井民次郎殿ですね。羽州の仙女からあなたがこの山に来ると聞いたので、この猿に案内させました。
私は甲斐の永田徳本という者で、先年江戸で将軍様の御病を治しましたが栄達を好まないためこうして深山に籠っております。」
民次郎「かの神医と呼ばれる徳本先生ですか、しかしせっかくの医術をこのような山奥に埋もれさせるのはもったいない。
せめて弟子などを育て後世に伝えていくべきではありませんか?」
徳本「扁鵲・華佗といった名医もその技術は伝えられずじまいです。
わたしも今まで医術のあらましは伝えてまいりましたが、微細なことは口では伝えることができませんでした。
東漢(張仲景「傷寒論」など)以来、医書が汗牛充棟と溢れてるにも関わらず、良医より藪医者の方が多いのもこのためです。」

817 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2021/11/20(土) 20:06:32.78 ID:SFSJQDUZ
民次郎「しかし何のために私をお呼びになったので?」
徳本「御不審はごもっともです。近来この山奥にヒヒに似た異獣が棲みついており、時たま里に出ては人を喰らうため難儀しております。
百人力の英雄であるあなたであれば退治してくれるだろうと思い、こうしてお願いするしだいです。」
民次郎「暴虎馮河は戒めとしておりましたが人々に害をなす異獣となれば命を尽くしましょう。」
徳本は大いに喜び、民次郎を粥で饗応し
徳本「かの怪獣はいつも暁天にこの大岩の上に現れます」と案内。
民次郎が岩のそばの木の上で待っていると、夜が白みだしたころ、
一丈余りの、熊のように体が黒く、頭の毛は緋のように赤く、顔は獅子のようで、
左右の手の爪は竜のようで、古狼を瓜のように割いて喰らう異形のものが現れた。
民次郎がかつて羽州の仙女より授けられし手裏剣を怪獣の襟元に突き立てたところ、怪獣は暴れだし、周囲を見渡し、木の上の民次郎を見つけ、襲ってきた。
民次郎はもう一本の手裏剣を怪獣に投げ、胸板から背中まで突き通し、怪獣はのたうち回って突っ伏した。
民次郎が木を降り、怪獣の様子を見ようと近寄ると、怪獣はまだ息絶えておらず、起き上がり民次郎を襲ったため、民次郎は慌てず怪獣を蹴り倒し、そのまま首を打ち落とした。
すると山中の獣すべてが歓びの鳴き声を上げ、怪物の死骸にとりつき、首を残して、あっという間に四肢を食い尽くしてしまった。

818 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2021/11/20(土) 20:08:29.53 ID:SFSJQDUZ
そこに徳本が杖をつきつつ飄然として現れ
徳本「あなたのような壮士の英武に頼らなければこのような悪獣を滅ぼすことはできなかったでしょう。
一国の人民の悦び、これ以上のものはありません」
民次郎「なんの匹夫の勇、称賛するほどのことでもありますまい」
微笑みながら徳本「いやいや多くの人民を害した悪獣を滅ぼし、国家の害を取り除いたのです。なにが匹夫の勇でしょうか」
とそのまま獣の首を庵の庭まで運んだあと、一巻の書を取り出し
徳本「これは養生の書ですが、凡庸の者が読んでもさきほど申しましたように役に立ちません。
あなたのような異才の方が熟読してこそ、百歳、二百歳の長命が得られ、国家の至宝として活躍できることでしょう。
今日の謝礼のため、いささかなものですがどうかお受け取りください」
すでに辰の刻近くとなったため、民次郎はねんごろに暇を告げて庵を後にし、徳本は名残を惜しみ庵の外まで民次郎を見送った。

とほとんど仙人扱いされた永田徳本の話でした



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コメント

  1. 人間七七四年 | URL | -

    姨捨山サービスエリア、今では夜景の名所だ。開けていて景色を見るのに絶好。姨捨山駅には月の名所との案内があるが、崖の上で如何にも見晴らしが良さそう。昔は夜景じゃなくて、田に映る月を観てたのか。棚田よろしく田ごとの月もあったかも。

  2. 人間七七四年 | URL | -

    ところで、日本の昔話には「ヒヒ」の化け物が時折出て来る。これには浪漫を感じていて、外国産のものが渡来したのではないかと。アフリカ北東部のマントヒヒ、まさかではあるが南米のハゲウアカリ。

    ニホンザルが化け物みたいに一丈にもなるとは信じ難いが、鵺と違って度々出てくるなら、それらしい化け物は居たんじゃないかと。民話でも、どうも猿と猩々は別物扱いしていたような印象を受ける。一方でヒヒ=猩々だったようにも感じている。暗闇なら、これらの猿が1メートルくらいでも手足を伸ばせば3メートルくらいに見えたろう。以上、民話好きの完全に個人の勝手な印象ですが。

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