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「伊藤(東)満處と犬の糞」

2022年02月18日 16:16

359 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2022/02/17(木) 22:27:09.19 ID:SFDxaC0D
大正15年の「少年少女歴史ものがたり」から「伊藤(東)満處と犬の糞」

戦国時代、都には大嵐と雷という二人の相撲取りがいて、それぞれ東西の大関として名を轟かせていた。
ある時、豊後に興行に行き、竜王山の城下の茶屋で休みながら二人で自慢話をし
「この世に英雄豪傑は数多いが、力業では俺たち二人が日本一だな」と大声で言った。
するとくすくすという笑い声が聞こえたので「俺たちを笑うか?」と雷が睨んだところ、
「だって、日本一が二人もいることからしておかしいじゃないか」と、十五、六の少年が言った。
雷も「うう」と黙ってしまうと見物人も笑って「それで、どちらが日本一なんだい?」と聞いてきた。
少年も「それなら力比べをしてごらん」と言ってきたので、力士たちもその気になり、四股を踏むと、地震のような地響きがして見物人はみな逃げ去ってしまった。
少年はまだ残っていて馬鹿にしたような顔で「さあ相撲だ、のこったのこった」と言ってきたため、
力士たちは馬鹿らしくなり「やめたやめた、俺たち二人とも日本一でいいじゃないか」と言った。
すると少年が「でもお前たちは私の友達の原大隅守にはとても及ばないよ」と嘲笑ったため、雷と大嵐は怒って、少年に案内されて原大隅守の屋敷に向かった。
屋敷の門前には立て札があり「余と力比べを望まれる方は、その姓名を黒い碁石で門柱に記されよ」
と書かれていたため、力士たちは碁石を檜の門柱に親指でポツンポツンとめりこませ、玄関に入った。
取次のものに案内されて部屋に入ると、そこには一七、八の若者が着座していた。
若者は自分が原大隅であると名乗ると、床の間の大鹿の角を握って粉々にしてしまった。
大嵐と雷は驚いたものの、自分達も鹿の角を借りてめりめりと床柱に押し込んだ。
原大隅守は「これはお見事」と言いつつ、小指でその鹿の角をほじくり出したため、力士たちは驚いたが「今度は相撲でお相手したい」と言った。
そこで原大隅守は竹藪に行き、周囲一尺はあろうかという大竹を根本から二本の指で摘みあげたため、相撲取りたちはこれは敵わぬと逃げていってしまった。
それを見た最初の少年が笑っていると、原大隅守は大竹をちぎっては捨て、ちぎっては捨て、と土俵を作っているところであったが
原「伊東氏、どうしたというのです?」
伊東少年「二人とも逃げていったのですよ、あはははは」
原「おやおや、せっかく相撲場ができたのに、どうしてくださるか?」
てっきりいっしょに笑ってくれると思ったのに、とあての外れた伊東少年はまた何か思いついたらしく
「ではこの私、伊東満處(まんしょ)が二人に代わり、日本一を決めるために立たねばなりますまい」と言った。
原「いい加減にしてください。いくら貴君が御主君の一族にせよ、承知できませぬぞ」
伊東少年「まあまあ怒るでない、それにしても腹が空いたな、幸いここに犬の糞があるから君もやらぬか?」
と言いながら伊東少年は犬の糞を拾い上げ、原大隅守に半分すすめた。
原大隅守はますます怒ったが、伊東少年は「日本一の勇士ならこのくらい食えるだろう」と全部むしゃむしゃ食ってしまった。
原大隅守も負けん気を出して「貴公に食えて、私に食えぬわけがない」と、伊東少年が新たに拾った犬の糞を我慢して食った。
「ではこちらもどうだ?」と今度はぐにゃぐにゃするやつを差し出したため、原大隅守は閉口し
「もうおぬしを日本一とするから勘弁してくれ」と謝ったので、伊東満處は笑って承知した。

さてみなさん、伊東満處は本当に犬の糞を食べたのでしょうか?
馬鹿な、後に大友宗麟の使者としてイタリアに千々石ミゲルとともに洋行し、
時のローマ法王グレゴリー三世に、「この神の如き美少年に会う、死すとも恨みなし」と賛美された程の聡明な少年であった彼です。
(なおグレゴリオ13世は謁見後の翌月に亡くなっている)
実はポルトガル人からもらった犬の糞に似た菓子を食べ、原大隅守には慢心を戒めるために本物の犬の糞を食わせたのです。
おもしろいことに、そのあと伊東満處は熱烈なキリスト教信者となり、原大隅守はまた熱心な仏教信者になって、四国遍路の旅に上ったということです。



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コメント

  1. 人間七七四年 | URL | -

    話が余りにも無茶苦茶で呆れ返ってしまって面白かった。多分、地元に残った言い伝えか何かを元にしてるんだろうが、大正15年の「少年少女歴史ものがたり」から? う〜ん少年少女向けの話かい。
    この大正15年頃は自由な気風があったろうとは思うものの、関東大震災の後。余裕があったとは言えない時代に入ってるよな。それに伊東家には、どうも嫌な印象が付き纏う。くだらな面白い話に色々考え込んでしまいました。出版界は震災で人材が枯渇していたのだろうかなどとも。

  2. 人間七七四年 | URL | -

    よかった。
    途中まで読んでどっかの金銀兄弟みたいに少年に唆されて相討ちになるかと心配した(笑)

  3. 人間七七四年 | URL | -

    二桃三子を殺す類の話かと思ったがそんなことはなかったぜ!

  4. 人間七七四年 | URL | -

    「少年少女歴史ものがたり. 兄妹の巻」が国立国会図書館にあってwebで読めそう(最初の目次だけ確認)週末使って読んでみるかな

    「兄妹の巻」ってフォーカスのも20世紀末から昨今までのオタクコンテンツと大正で共通する日本人の萌え遺伝子なのかもとも思ったりもするが、「~の巻」ってことは他にもあるのだろうか

  5. 人間七七四年 | URL | -

    ※4続き

    要所要所で挿絵付きのハードカバー(表紙はなんとカラー印刷)だとわかったんで奥付見たら成輝堂出版で定価1円30銭だった
    いわゆる円本(大正末期、昭和初め)の類か。円本ってこんな豪華だったんだ

  6. 人間七七四年 | URL | -

    ※4続き

    「円本ってこんな豪華だったんだ」って思うのは、昭和戦後世代で文庫本(現代価格数百円、ペーパーバック)があるのが基準とする価値観しているからか。円本ブーム(大正末期の1円=数千円)のあとに岩波文庫ができて、廉価に文芸文化を受容できている世代よりまえでは円本も革命的だったのかな

  7. 人間七七四年 | URL | -

    荒唐無稽過ぎて反応に困るとこある

  8. 人間七七四年 | URL | -

    言葉巧みに人を翻弄するところは伊東マンショの弁舌の才覚、その非凡さを思わせるところではある。
    ただこの才を活かそうとした時節がめちゃくちゃ悪いタイミングだったのが歴史の妙と言いたげだなぁ。

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