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与次郎狐

2010年02月08日 00:05

332 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 13:07:09 ID:M7zRt50G
ここでガイシュツのこの話「與次郎稲荷・むかし話」と多分同じ話?とは思うんだが、
http://iiwarui.blog90.fc2.com/blog-entry-1609.html
細かい所が違う文章を読んだので投下。


「与次郎狐」

1600年ごろの話、佐竹義宣が水戸の領地を没収され、秋田に転封となった。
東北の地にありながらも前向きに再興を夢見、
久保田山に立派な城を築こうと日夜人を集めて一大工事を行っていた。
そんな義宣が、ある夜から毎晩同じ夢を見るようになった。
白狐が夢に現れて、切々とこう訴える。
「城の工事で、私たち狐が暮らすところがなくなってしまう。
少しだけでいいので、狐が暮らせる場所を残して欲しい。
願いを聞いてくれるなら、きっと私たち狐が貴方の城を守る」
毎晩同じ夢を見続けた義宣は不思議な因縁を感じ、
夢の中で狐に土地を残すことを約束し、
「狐の領地」なる手付かずの場所を久保田山の一角に設けた。

そんなある日のこと、与次郎と名乗る飛脚が義宣の前に現れた。
「私はとても早く走ることができます。貴方にお仕えしたいので、何なりとお申し付け下さい」
ちょうど江戸に送る便りがあったので、義宣は試しに与次郎に託した。
すると、与次郎はなんと三日で江戸まで行き着き、返事まで預かって戻ってきたのである。
往復たったの六日。
義宣はこれに大喜びし、あらゆる手紙を与次郎に頼むようになり、
ついには大切な密書まで託すようになった。

昼間は走り続ける飛脚だが、夜は休まねば走れない。
与次郎はあちこちに常宿を持ったが、東根の六田村の勘右衛門の宿も常宿だった。
この宿に、花という美しい娘がおり、いつしか与次郎を恋い慕うようになった。
ある夜、再び泊まった与次郎を訪ねたお花は、思い切って恋心を打ち明けた。
これに驚いた与次郎だが、しかし与次郎には応えられない秘密があった。
「実は、私は人間ではありません。久保田山にすむ白狐です。
義宜様への恩返しのため、飛脚として仕えているのです」
これを聞いたお花も驚いたが、しかし心が変わることはない。
朝になり再び出て行く与次郎を見送りながら、切ない涙を流すのだった。

ちょうどその頃、江戸の徳川家で佐竹が不穏な動きをしているとの噂が流れた。
飛脚の与次郎という男が手となり足となって暗躍しているというのである。
実は、与次郎は飛脚の役目だけではなく、色々な人物に化けることで、
徳川家の様子を探り、義宜に密かに伝えていたのだった。
家康はついに隠密に、与次郎を討つ事を命じた。

六田村に常宿があるという情報をつかんだ隠密たちは、
宿の主人の勘右衛門に金を握らせ、手助けするよう依頼した。
間右衛門は金に目がくらみ、手助けすることに同意してしまったのだ。
そんなことはつゆ知らず、いつものようにやってきた与次郎は、
昼間走り続けた疲れから、ばったりと倒れるようにして、ぐっすりと眠っていた。
それを揺り起こした者がいる。お花である。
「隠密が忍んでいます、父が協力しているのです、このままでは討たれてしまう!」
お花は父と隠密の企みを盗み聞いていたのだ。
それを聞いた与次郎は急いで支度を整え、お花の手引きで裏口から逃げ出した。
「ありがとう、このお礼は、必ず」
足の速い与次郎の後姿はすぐに見えなくなってしまったが、
お花は愛する与次郎の無事をそっと祈った。

333 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 13:07:56 ID:M7zRt50G
さて、お花の咄嗟の判断で命を救われた与次郎だったが、
隠密が依頼していた者は間右衛門だけではなかった。
それは、以前から「あの飛脚は狐の化身ではないのか。いずれ討ち取ってやる」と
密かに企んでいた猟師の谷蔵である。
与次郎を討ち取ったら懸賞金を出すと、話が告げられていたのだ。

宿から逃げ出し、六田村を離れるために必死に走っていた与次郎だが、
なにやら良い匂いがして、つい足を止めてしまう。
なんと、好物の油揚げが置いてあったのだ。
その日与次郎は、疲れてバッタリと眠ってしまったために、一日何も食べていなかったのだ。
一瞬、つられて近づいた与次郎だが、お使いの途中だ!と思い直し、踝を返す。
その時だ。
谷蔵の放った矢が、与次郎の身体を貫いたのである。
苦しみながら息を引き取った与次郎は、元の真っ白な狐に戻っていた。
「やはり正体は狐だったか!今夜は狐汁だ。懸賞金ももらえるぞ!」
隠れていた谷蔵はそう、嬉しそうに雄叫びを上げた。

その後。あまりに与次郎が帰るのが遅い事を心配した義宣は、
家臣たちに与次郎の様子を探りに行かせた。
そして与次郎が六田の村で死んだことを知り、大いに嘆き悲しんだ。
そしてお花も、事件の翌日に与次郎の死を知り、悲嘆の涙にくれたあと、
どこへともなく旅に出てしまい、二度と六田には戻らなかった。

この事件の後、六田村には正体不明の病気や発狂、大火災など、相次ぐ異変が起き、
白狐の祟りではないかと恐れた村人と幕府が、与次郎の霊を鎮めるために
与次郎稲荷大明神をこの地に祀った。それ以降異変は起こらなくなったという。
秋田藩が参勤交代の際には、度々ここにも立ち寄って参拝したと伝わる。
ちなみに神社の前には、室町期に作られたという石の大鳥居が立っている。

与次郎稲荷は久保田城、現在の千秋公園にもある。
こちらは与次郎の死を悼んだ義宣が、庭に祀ったものだといわれている。




335 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 13:58:29 ID:e4As9bOK
坂東は狐や天狗が忙しいな

343 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 23:00:53 ID:+RSGxV+g
>>332
「狐」は被差別部落の人間の隠喩だという説を
久保田城の案内をしてくれたボランティアのお爺さんに聞いたよ。

344 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 23:25:38 ID:tqNyZ91z
>>343
東北でか?

345 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 23:29:39 ID:+RSGxV+g
>>344
そりゃ秋田市だからね。

346 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/07(日) 23:35:26 ID:tbHDwvTA
>>344
東北ではすくないけどないわけじゃないらしい。>被差別部落

365 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/02/08(月) 15:30:46 ID:oSenG3rA
>>343
四国における、狸の怪異譚の多くも狸は遍路等の隠喩ではないかという説があるね。
犯罪等を犯して、地元から出奔して遍路してるという人間は今でも時折いる。
で、そういう中には特殊技術を持った人間なんかもいる。
四国の人間もその辺の事情を分かって技術開発なんかに利用した可能性がある。
名前を表に出せないそういうひとた人たちの活躍を「狸の仕業」と称した。
もちろん、逆もあって四国でもやっぱりかどわかしなんかの犯罪に手を染める奴もいて、それもやっぱり狸扱い。

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コメント

  1. 人間七七四年 | URL | -


    小浜藩展に行ったときに、飛脚が白狐の話が紹介されてたなぁ

    こっちは時代も詳しい話の内容も書かれていなかったけど

  2. 人間七七四年 | URL | mQop/nM.

    野暮なコメですが一寸。
    平地や山里に定住して過去帳に名前が載る百姓ならいいんだが、深山暮らしで戸籍のようなものがあいまいな山人は狐や天狗に擬されてしまうかもしれんね。
    しかも体力脚力は相当あるだろうから縁あって飛脚に使われたら優秀だった、てことが実際あったかもしれん。

  3. 人間七七四年 | URL | -

    なんでも被差別部落にするのは変な政治くささがあるなぁ。
    むしろ、狐に擬されるなら修験者とかじゃないかな?
    あるいは佐竹家っーことを考えると、水戸の周辺に由来のあるグループとかね。

  4. 人間七七四年 | URL | mQop/nM.

    古来筑波は修験者の修行の場だったから、ありえなくもない説だ。

  5. 人間七七四年 | URL | -

    元スレのほうにも書いたけど、四国の狸説話の狸はお遍路さんって説があるね。
    なんらかの事由で地元を出奔して遍路をせざるをえなかった技術者なんかが四国でその技術を発揮する場を得ても、名前を公表できないから「狸」になるってことらしい。

  6. 人間七七四年 | URL | -

    そもそも秋田は部落を町や村感覚で言うから
    本では何と書いてるか知らないが
    最低でも北部に住んでる自分のところは

  7. 人間七七四年 | URL | -

    城を造ろうとすると狐や異形が出て、先住権を主張するってのは他の話にもある。
    たぶん、山野を切り開くことへの罪悪感とか、在地信仰への恐れが根っこにあるんだろ。
    そこから飛脚の物語に発展しちゃうのが、この話の独特なとこだね。

  8. 人間七七四年 | URL | -

    ※6
    俺の地元じゃ被差別部落じゃないところでも○○(地名)部落っていうけど秋田もそうなのか

    そういえば俺は似たような話にこんなのを聞いたことがある
    昔ある殿様(俺の地元)の部下に飛脚がいた。
    飛脚は他をしのぐ速さで往来していた
    なぜそれができたかというと背中や脇腹一帯に鳥のような羽を内蔵していたからだ

    俺の地元は佐竹や秋田とはなんら関係の無い西日本の田舎だが飛脚系の話って各地に結構あるんだな

  9. 人間七七四年 | URL | -

    ※欄でもあるように 部落=被差別部落 じゃないからね。
    部落を「村」「町」「集落」みたいな意味で使う地域は全国にある。
    もともと部落って言葉が「○○エリア」とか「○○ブロック」みたいな意味だから当たり前だけどさ。

  10.  人間七七四年 | URL | -

    もしかしたらサンカとかの部族なのかもね
    あれらも特異な集団だから妖怪のモチーフになってもおかしくない。
    隆慶一郎の小説だと普通に忍働きしてるし

  11. 人間七七四年 | URL | -

    与次郎狐で調べてたらこの飛脚のフルネームって那珂與次郎っていうんだね。
    那珂って調べると、なんと茨城がヒットする。那珂市、那珂郡、ひたちなか(常陸那珂)等々。
    もしかしたらこの狐ってのは茨城からついてきた忍…なのかもしれないね。想像すると夢ひろがりんぐ。

  12. 人間七七四年 | URL | -

    那珂氏なら佐竹以前に水戸城主だった江戸氏の本姓だな。
    まぁ、徳川光圀の下で活躍したとされる元盗賊の松之草村小八兵衛(風車の弥七のモデルとされる)のような存在だったのかも。

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