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信濃の黒姫伝説

2010年03月05日 00:13

363 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/03/04(木) 03:25:50 ID:aWzpZgRM
信濃の黒姫伝説
「高梨政盛、娘をドラゴンにもってかれるの事」

高梨氏は北信濃の古い豪族である。
政盛はその最盛期の当主で、越後の長尾家と縁戚を結んで力をつけたので、
上杉謙信の大叔父だったりもする人だがここではそれはあまり関係ない。
政盛には美しい娘がいた。信州一といわれた、それはそれは美しい娘であった。
名を、黒姫という。

美しい黒姫には当然縁談の求めが絶えなかったが、求婚者の中にちょっと風変わりなのが混じっていた。
沓野奥四十八池の総大将、志賀高原の大沼池のヌシたる大蛇、黒龍である。
黒龍は姫の噂を聞きつけ、その姿を垣間見んとて蝶に変じて姫のもとに忍び込んだのであるが、
たまたま蝶を見つけた姫に微笑みを向けられ、一発でフォーリンラヴしたものであるという。

黒龍は今度は若侍の姿をとって高梨城を訪れ、しかし堂々と大沼池の黒龍であると名乗りをあげ、
どうか黒姫を妻にいただきたいと願い出た。城主高梨政盛以下人間たちはパニックに陥った。
蛇なんぞに娘を嫁にやるなどとんでもないが、しかし神たる相手を怒らせて、
洪水でも起こされたらたまらないからである。そこで政盛は一計を案じた。

「あなた様が神なのはわかりましたが、しかし娘は人間であります。
 人間のままでも娘を守っていただけるというのなら嫁に出しましょう。
 今のその姿のまま、馬で走る私に合わせて、城を二十周走ってみせてください」

黒龍は応諾し、政盛の馬を追って走り始めた。
実はこれは罠であった。城の周りにはささらのごとく刃が仕掛けてあり、
罠のありかを知っている政盛はこれをなんなくかわしたが、黒龍は幾度となく刃に身を裂かれた。
しかし、どれほど傷ついても、黒龍は諦めない。人間の姿のまま、血にまみれながら、
とうとう二十周を走りぬいた。

「これにて、約束通りにござる。姫を頂きたく」
「なんの。畜生ごときが我が娘を嫁にするなどと、身の程を知れっ」
政盛は身勝手にも約束を反故にし、刀を抜いて黒龍に斬りつけた。
深手を負い、さしもの龍もついに切れた。
「なんと。たばかりおったか人間め、これは許せぬ」
巨大な黒い龍神の本性を現し、咆哮をあげて龍は飛び去る。

その場に飛び込んできたのは、一部始終を見ていた黒姫その人であった。
黒姫はものすごい剣幕で父親を罵倒した。
「父上、なんということをなさいます!彼は約束を守ったではありませんか!
 彼が約束を守られた以上、わたくしはあの方の妻となるのが筋目というものではありませんか。
 それをこともあろうに斬りつけるなど、それが人間のやることですか!」

黒姫は、いつしか黒龍の想いにほだされていたのである。
しかしそんなことは知らない黒龍は、怒りに我を忘れて暴走し、
人類など滅ぼしてくれんという勢いで暴風雨を巻き起こしていた。
高梨家の領地はまさに水没しようとしていた。事態を収拾すべく飛び出したのは、またしても黒姫。
黒姫は荒れ狂う竜神に向かって叫んだ。
「黒龍さま!わたくしは、あなた様の妻となります!あなた様のもとに参ります!」
嵐はピタリとやんだ。
ところが黒姫は、おずおずと自分の前にやってきた黒龍に対しても説教を始めた。

「お怒りになる気持ちはわかります!ですけど!悪いのは私の父でしょう!
 田畑を荒らされた百姓たちに何の罪がありますか!反省なさい!」

人間の娘の説教に対し、龍神は涙を流して、怒りに我を忘れた己の非を詫びた。

黒姫はそのまま黒龍の背に乗って飛び去り、二度と高梨の城へは戻らなかった。
ふたりが幸せな暮らしを送ったとされるその場所は、今も黒姫山の名で呼ばれている。

364 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/03/04(木) 03:33:07 ID:aWzpZgRM
この話は信玄と争った世代である政盛の孫の政頼のものとされることもあります。

話の筋自体もドラゴンとの戦いで高梨城が焼け落ちて高梨氏がいきなり滅んだり
黒龍も黒姫も死んでしまう話だったりすることもあるんですが
このパターンが一番美しい……まあ肝心の政盛は完全にダメな悪役にされてますが。




365 名前:人間七七四年[] 投稿日:2010/03/04(木) 04:53:08 ID:/mEk8Ill
黒龍が黒姫の尻に敷かれたのは言うまでもない

367 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/03/04(木) 06:52:16 ID:spqkNLyh
>>361
河童って水死体の象徴的にあらわしたものだっけ?

368 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/03/04(木) 09:07:12 ID:a5gOwYkg
>>363
まんが日本昔話になってなかったっけ?
見たような記憶がある

382 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/03/04(木) 16:59:21 ID:IGDRmuWG
妖怪譚の流れがおもしろい。民話っていいね

>>363
りゅうの目のなみだっていう絵本を思い出したんだがw

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コメント

  1. もののけ姫

     バヤヲこと、宮崎駿監督の構想メモではあの長編作品はこういうパターンに
    なることが想定されていたらしい。
     異種婚姻譚がああなるのも凄い。

  2. 人間七七四年 | URL | YZJCp5.6

    黒姫山ってそーゆー伝説の山だったんだ!
    初めて知ったし、黒姫がすげぇ良い女過ぎて笑いがとまらねぇwww
    龍神も黒姫の尻に敷かれるなら本望だろう。
    やっぱ男はこーゆー女の尻に敷かれるのが一番幸せだって。

  3. 人間七七四年 | URL | LmMdU2V.

    「らしい」っつーかアニメージュ文庫版ではまるきりこのパターンだったな
    映画版のあらすじ聞いたときには正直

     ど う し て こ う な っ た

    だったw

  4. >2
    えー、H○NDAさんちからお兄ちゃんのところに来たお嫁さん
    がアップ始めたようですが…
    あと、南海筋からもそんな感触が…

  5. 人間七七四年 | URL | -

    いい話だなあ。姫さんと龍神さんが今でも幸せに暮らしてるといいな。

  6. 人間七七四年 | URL | -

    黒姫が容貌だけでなく中身がすごくイイ女な件
    ヒラヒラと飛んできた蝶を見て微笑む可憐さんかとおもいきや、
    父親はおろか顕現して暴れ回った後の黒龍を叱るってどんだけ度胸あるんだw
    黒龍は最初外見に惚れたかも知らんがその直感は間違っていなかった、と

    異類婚姻譚は悲劇が圧倒的多数だしまれにハッピーエンドでも、
    人間側(男)の身勝手さや人外側(男)のストーカーっぷりもあって、
    めでたしめでたしって言われても釈然としないのが多いが、これは面白く素敵な(;∀;)イイハナシダナー

  7.   | URL | -

    このカップルは萌えるなw
    美女と野獣みたいなかんじだw

  8. 人間七七四年 | URL | -

    最初に謙信の名前がちょっと出た時
    最後には越後の龍さんが姫君を掻っ攫ってってしまいました。
    ってオチにならないかヒヤヒヤしたw

  9. 人間七七四年 | URL | -

    こういう凛々しい女の尻に敷かれるは男として最高だね。
    男だったらまさに漢だけど女でもやはり漢。昨今の勘違い女にはないコレがない。

  10. 黒龍 | URL | -

    高梨政盛(1455~1513)
    先祖に高梨高信(1183・備中で平重衡軍と戦い、討ち死に)
    高梨忠直(1184・木曾義仲とともに七条河原でさらし首)

    父・政高と政盛の代に中野扇状地に力を延ばし、治水/灌漑に努めた。
    夜間瀬川は暴れ川であり、源流は志賀高原の大沼池・びわ池・ガラン沢(山之内町)である。

    [古来この締切より上流に於ける承水及湧出水は勿論、蝉の小便に至る迄も総べて我等の用水なると伝え来る」(延宝7年 1679 )

    今に至っても夜間瀬川の水利権は中野市にあり、上流の山ノ内町にはない。
    越後長尾家と高梨家には強い縁戚関係がある。

    何かが本当に有ったのかもしれない。

  11. 人間七七四年 | URL | -

    日本昔ばなしか何かでやってたけど、
    ほんとにイイハナシダナー( ;∀;)

  12. 人間七七四年 | URL | IwZaysKE

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