698 名前:1/2[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 10:57:10 ID:FGOUqz9i
新婚の真田信繁は、舅になった大谷刑部少輔吉継と面会した。
「ムコ殿、お主の刀が思いのほか切れぬ事があったそうだが、本当だろうか?」
(http://iiwarui.blog90.fc2.com/blog-entry-3776.html)
「ええ、まぁ・・・」「そういう時もあるだろう。」
吉継は二尺四寸の来国俊を取り出すと、信繁に与えた。
「この刀は、短いが頑丈だ。ああ、試し斬りなど要らぬ。わしが使った際は、兜に斬りつけても水を打った様だった。」
信繁は感激して帰宅すると、「どうだ、舅どのより頂戴した名刀だ!」と、近臣に見せびらかした。
近臣たちは、名刀を興奮して眺めたが、樋口四角兵衛という者が「この刀を、拙者に下され。」と言い出した。
「な、なにを言う!このたわけが!!」
信繁はあわてて刀を隠したが、樋口はあきらめていなかった。
それからしばらく経った雨の日、信繁がボーッとしていると樋口が、「おヒマなら、双六でもやりませぬか?」と誘った。
「よし、やるか!」
「せっかくだから賭けますか。拙者が勝てば、例の名刀を下され。信繁様が勝てば、この首を差し上げよう。」
「いいのか?わしは強いぞ?」
「・・・・・・」「これで拙者の三連勝。では、例の刀をご用意下されよ。」樋口は、ほくそ笑んで去った。
納得行かない信繁が後でサイコロを調べると、重心がおかしい。
「・・・イカサマではないか!誰が名刀をくれてやるか!」
699 名前:2/2[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 11:01:46 ID:FGOUqz9i
再び樋口の顔を見れば罵ってやるつもりの信繁だったが、十日たっても樋口は出仕してこない。
「さては、日ごろの放言が祟って闇討ちでもされたか。死なれてみると、惜しいヤツよ。」
「あのぅ・・・」感傷に浸る信繁に、侍女が声をかけた。
「・・・なんだ?」
「十日ほど前、私が倉の整理をしていると樋口殿がやって来て、『刑部さまより拝領の刀をよこせ。』と言うので
信繁さまの御用かと思い、渡しました。そのぅ、つまり、恐らく樋口殿は刀を盗んで・・・出奔・・・・・・」
「あ、あの野郎ぉぉぉおおお!!!」
しかも樋口の行方を捜した所、隠れるどころか不敵にも親類縁者の家を渡り歩いているだけと判明した。
「おのれ、追い詰め成敗してくれる!」
「騒々しいの、何事じゃ?」「あっ、父上!実は樋口が・・・」
信繁の話を聞いた真田昌幸は、高らかに笑った。
「まったく仕方のない奴よのぅ!」「でしょう?よって樋口を引っ捕らえて・・・」
「たわけ。お前の事じゃ。
元々バクチとは、偽って人を出し抜くものよ。お前にも教えたハズだが、名刀に目がくらんだな?
早々に樋口を呼び返してやれ。ああ、刀も取り返すなよ?今のお前などが持つより、樋口が持っていたほうが
よほど用に立つわい。」
信繁は赤面して立ち去ると、樋口に帰参を許した。その後、樋口は大坂の陣まで信繁に仕えて義理を果たした後
信州に帰ったという、いかにも「真田家の侍」な話。
707 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 11:57:13 ID:xRpKOCm9
>>698-699
池波さんの「真田太平記」の樋口角兵衛のモデルの人だね
っていうか、モデルがいるとは知らなかった、ありがとう
708 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 12:30:11 ID:vfrTr/NH
榎木氏が演じてた人物か。
何者かと思ってた。
709 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 14:13:45 ID:PRTXIQtg
>>698-699
おもしろいな
出典を自分でも読んでみたいんで
よかったら教えて下さらんか?
721 名前:698[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 22:41:02 ID:FGOUqz9i
>>709ごめん今帰宅
「真田家御事蹟稿」
真田家臣、河原綱徳(歯を折られた綱家さんの子孫)がまとめた真田家の史料集。
kwsk言うと、「信濃史料叢書」に収録されてて15~18巻が真田四代(幸隆~お兄ちゃんの息子二人)。
ただし、地元研究会が編纂した貴重な本なんで、たぶん真田関連の地域の図書館でしか見れない。
手っ取り早いのは、大きな図書館で相互貸出し(交流のある図書館同士での本の交換)の申込みをすること。
とりあえず、自分はそうした。
722 名前:698[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 22:43:43 ID:FGOUqz9i
ついでだから、自分の他のソースも晒す。連レスご無礼。
難易度:弱
「名将言行録」、「常山紀談」、「明良洪範」、「翁草」、「西藩野史」(島津さん家関連)、「日本歴史文庫」(見てのお楽しみ)
・・・国立国会図書館のデジタルアーカイブで、書名検索すれば閲覧可能。
難易度:中
ニュートンプレス「原本現代訳シリーズ」(「信長公記」、「三河物語」、「甲陽軍鑑」、「小田原北条記」、「葉隠」)
現代思想新社「備前老人物語・武功雑記」
桑田忠親著・講談社学術文庫「太閤の手紙」
吉本健二著・学研M文庫「戦国部将からの手紙」
・・・密林で購入可能。
難易度:強
「群書類従」(「蘆名家記」、「大友記」、「謙信軍記」、「兼山記」(鬼武蔵のヒャッハー)、「那須記」(大関さんのヒミツ)等)
ほか郷土史料
・・・県立・大都市の市立等、大きな図書館で閲覧可能。ただし、かなり高価なので貸出禁止の所もある!
725 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 23:00:01 ID:j/ZRC8d6
>>721
おーありがとう
「信濃史料叢書」国会図書館にあったから今度読んでくるわ
新婚の真田信繁は、舅になった大谷刑部少輔吉継と面会した。
「ムコ殿、お主の刀が思いのほか切れぬ事があったそうだが、本当だろうか?」
(http://iiwarui.blog90.fc2.com/blog-entry-3776.html)
「ええ、まぁ・・・」「そういう時もあるだろう。」
吉継は二尺四寸の来国俊を取り出すと、信繁に与えた。
「この刀は、短いが頑丈だ。ああ、試し斬りなど要らぬ。わしが使った際は、兜に斬りつけても水を打った様だった。」
信繁は感激して帰宅すると、「どうだ、舅どのより頂戴した名刀だ!」と、近臣に見せびらかした。
近臣たちは、名刀を興奮して眺めたが、樋口四角兵衛という者が「この刀を、拙者に下され。」と言い出した。
「な、なにを言う!このたわけが!!」
信繁はあわてて刀を隠したが、樋口はあきらめていなかった。
それからしばらく経った雨の日、信繁がボーッとしていると樋口が、「おヒマなら、双六でもやりませぬか?」と誘った。
「よし、やるか!」
「せっかくだから賭けますか。拙者が勝てば、例の名刀を下され。信繁様が勝てば、この首を差し上げよう。」
「いいのか?わしは強いぞ?」
「・・・・・・」「これで拙者の三連勝。では、例の刀をご用意下されよ。」樋口は、ほくそ笑んで去った。
納得行かない信繁が後でサイコロを調べると、重心がおかしい。
「・・・イカサマではないか!誰が名刀をくれてやるか!」
699 名前:2/2[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 11:01:46 ID:FGOUqz9i
再び樋口の顔を見れば罵ってやるつもりの信繁だったが、十日たっても樋口は出仕してこない。
「さては、日ごろの放言が祟って闇討ちでもされたか。死なれてみると、惜しいヤツよ。」
「あのぅ・・・」感傷に浸る信繁に、侍女が声をかけた。
「・・・なんだ?」
「十日ほど前、私が倉の整理をしていると樋口殿がやって来て、『刑部さまより拝領の刀をよこせ。』と言うので
信繁さまの御用かと思い、渡しました。そのぅ、つまり、恐らく樋口殿は刀を盗んで・・・出奔・・・・・・」
「あ、あの野郎ぉぉぉおおお!!!」
しかも樋口の行方を捜した所、隠れるどころか不敵にも親類縁者の家を渡り歩いているだけと判明した。
「おのれ、追い詰め成敗してくれる!」
「騒々しいの、何事じゃ?」「あっ、父上!実は樋口が・・・」
信繁の話を聞いた真田昌幸は、高らかに笑った。
「まったく仕方のない奴よのぅ!」「でしょう?よって樋口を引っ捕らえて・・・」
「たわけ。お前の事じゃ。
元々バクチとは、偽って人を出し抜くものよ。お前にも教えたハズだが、名刀に目がくらんだな?
早々に樋口を呼び返してやれ。ああ、刀も取り返すなよ?今のお前などが持つより、樋口が持っていたほうが
よほど用に立つわい。」
信繁は赤面して立ち去ると、樋口に帰参を許した。その後、樋口は大坂の陣まで信繁に仕えて義理を果たした後
信州に帰ったという、いかにも「真田家の侍」な話。
707 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 11:57:13 ID:xRpKOCm9
>>698-699
池波さんの「真田太平記」の樋口角兵衛のモデルの人だね
っていうか、モデルがいるとは知らなかった、ありがとう
708 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 12:30:11 ID:vfrTr/NH
榎木氏が演じてた人物か。
何者かと思ってた。
709 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 14:13:45 ID:PRTXIQtg
>>698-699
おもしろいな
出典を自分でも読んでみたいんで
よかったら教えて下さらんか?
721 名前:698[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 22:41:02 ID:FGOUqz9i
>>709ごめん今帰宅
「真田家御事蹟稿」
真田家臣、河原綱徳(歯を折られた綱家さんの子孫)がまとめた真田家の史料集。
kwsk言うと、「信濃史料叢書」に収録されてて15~18巻が真田四代(幸隆~お兄ちゃんの息子二人)。
ただし、地元研究会が編纂した貴重な本なんで、たぶん真田関連の地域の図書館でしか見れない。
手っ取り早いのは、大きな図書館で相互貸出し(交流のある図書館同士での本の交換)の申込みをすること。
とりあえず、自分はそうした。
722 名前:698[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 22:43:43 ID:FGOUqz9i
ついでだから、自分の他のソースも晒す。連レスご無礼。
難易度:弱
「名将言行録」、「常山紀談」、「明良洪範」、「翁草」、「西藩野史」(島津さん家関連)、「日本歴史文庫」(見てのお楽しみ)
・・・国立国会図書館のデジタルアーカイブで、書名検索すれば閲覧可能。
難易度:中
ニュートンプレス「原本現代訳シリーズ」(「信長公記」、「三河物語」、「甲陽軍鑑」、「小田原北条記」、「葉隠」)
現代思想新社「備前老人物語・武功雑記」
桑田忠親著・講談社学術文庫「太閤の手紙」
吉本健二著・学研M文庫「戦国部将からの手紙」
・・・密林で購入可能。
難易度:強
「群書類従」(「蘆名家記」、「大友記」、「謙信軍記」、「兼山記」(鬼武蔵のヒャッハー)、「那須記」(大関さんのヒミツ)等)
ほか郷土史料
・・・県立・大都市の市立等、大きな図書館で閲覧可能。ただし、かなり高価なので貸出禁止の所もある!
725 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 23:00:01 ID:j/ZRC8d6
>>721
おーありがとう
「信濃史料叢書」国会図書館にあったから今度読んでくるわ
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コメント
人間七七四年 | URL | -
相変わらずスレ住人のレベル高いな。いつも感心するよ。
( 2010年05月14日 02:28 )
名無しさん@お腹いっぱい。 | URL | -
つまり、大阪の陣で信繁について家康追っかけ回して
信繁とはぐれて真田本家の軍にまぎれて帰国したのか?
( 2010年05月14日 02:30 )
人間七七四年 | URL | -
こんな部下が信之兄ちゃんにもついていたらもっと寿命も延びたろうに…
( 2010年05月14日 04:13 )
人間七七四年 | URL | GUybXdiw
※2
『真田家御事蹟稿』の余録でまとめられた『本藩名士小伝』(高志書院で翻刻)によると、
信繁の戦死を聞き、「兼て御供の者殉死又ハ戦死共きびしく禁じ置せ給へしかば」、
つまり生きて逃げ帰るようにあらかじめ信繁に言われていたので逃げ帰った。
※3
最終的には兄ちゃんとこに仕えている。
もちろん、寿命をすり減らすのに貢献したが、おしくも兄ちゃんに先立つこと3年、1655年に亡くなった。
( 2018年01月23日 20:50 [Edit] )
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