7 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2010/12/27(月) 19:44:13 ID:FNU0RgcN
ある日、真田家江戸屋敷に詰めていた重臣の祢津志摩守幸直は、主君の真田信之に呼び出された。
「おぅ志摩よ。国許の宮下藤右衛門が、大坂の弟に通じ、玉薬を横流ししておった。成敗したいが、あやつも聞こえし
強者だ。ここは、お前に討手を頼みたい。」
「せっかくの仰せですが、その儀は倅にお申し付けくだされ。」
「?三十郎にか?」
「はい。倅・三十郎、十七歳になりますが、鼠の首も取ったことがございません。ここは是非とも大事の場を踏ませ、
器量をご確認ください。」
「よかろう。三十郎を呼べ!」信之の前にまかり出た祢津三十郎は、上意討ちの命を謹んで受けた。
しばらくして後、上田から江戸にやって来た宮下藤右衛門は、さっそく信之のもとに報告に現れた。
「藤右衛門、大儀である。上田表は無事か?城中に変わった事はないか?」
「はい。国許に異常はございませぬ。」
「そうか!実は、お前について不審な噂を聞いてな。まあ、今日は休んで良い。三十郎、付き添ってやれ。」
「……はっ。」
藤右衛門に続き立ち上がった三十郎は、父の方へチラチラと視線を送ったが、幸直はにらみ返すばかりだった。
そのまま藤右衛門が廊下へ出た時、三十郎は動いた。
「上意である!藤右衛門、覚悟!!」
「小僧がっ!!」
藤右衛門が脇差に手をかけた瞬間、三十郎は飛び違いざまに斬りつけた。なおも逃げようとする藤右衛門に、三十郎は
返す刀で二の太刀を与え、崩れ落ちるその身体を押さえつけ、首を取った。
見事に上意討ちを果たした三十郎だったが、家中全体の評価は低かった。
「三十郎め、藤右衛門を斬った手並みは見事だが、親父殿の顔色をうかがい、にらまれてもなお、しばし動けなんだ。
肝が成っておらぬわ。今時の若い者はダメじゃのぅ。」
評価が変わったのは、この二人の会話の後である。
「志摩よ。三十郎、なかなかやるではないか。」
「はっ、有難き仰せ。それにしても、あの際に三十郎は『もう斬っても良いか?』と眼で訴えて来ましたので、
私も『殿の御前で万一の事あってはならぬ。部屋を出てからにせよ。』と目線を送りました。あやつはそれに応え、
殿の御座所を出た所で、仕掛けました。親の欲目ながら、場を外さぬ出来る男に育ってくれました…」
ある日、真田家江戸屋敷に詰めていた重臣の祢津志摩守幸直は、主君の真田信之に呼び出された。
「おぅ志摩よ。国許の宮下藤右衛門が、大坂の弟に通じ、玉薬を横流ししておった。成敗したいが、あやつも聞こえし
強者だ。ここは、お前に討手を頼みたい。」
「せっかくの仰せですが、その儀は倅にお申し付けくだされ。」
「?三十郎にか?」
「はい。倅・三十郎、十七歳になりますが、鼠の首も取ったことがございません。ここは是非とも大事の場を踏ませ、
器量をご確認ください。」
「よかろう。三十郎を呼べ!」信之の前にまかり出た祢津三十郎は、上意討ちの命を謹んで受けた。
しばらくして後、上田から江戸にやって来た宮下藤右衛門は、さっそく信之のもとに報告に現れた。
「藤右衛門、大儀である。上田表は無事か?城中に変わった事はないか?」
「はい。国許に異常はございませぬ。」
「そうか!実は、お前について不審な噂を聞いてな。まあ、今日は休んで良い。三十郎、付き添ってやれ。」
「……はっ。」
藤右衛門に続き立ち上がった三十郎は、父の方へチラチラと視線を送ったが、幸直はにらみ返すばかりだった。
そのまま藤右衛門が廊下へ出た時、三十郎は動いた。
「上意である!藤右衛門、覚悟!!」
「小僧がっ!!」
藤右衛門が脇差に手をかけた瞬間、三十郎は飛び違いざまに斬りつけた。なおも逃げようとする藤右衛門に、三十郎は
返す刀で二の太刀を与え、崩れ落ちるその身体を押さえつけ、首を取った。
見事に上意討ちを果たした三十郎だったが、家中全体の評価は低かった。
「三十郎め、藤右衛門を斬った手並みは見事だが、親父殿の顔色をうかがい、にらまれてもなお、しばし動けなんだ。
肝が成っておらぬわ。今時の若い者はダメじゃのぅ。」
評価が変わったのは、この二人の会話の後である。
「志摩よ。三十郎、なかなかやるではないか。」
「はっ、有難き仰せ。それにしても、あの際に三十郎は『もう斬っても良いか?』と眼で訴えて来ましたので、
私も『殿の御前で万一の事あってはならぬ。部屋を出てからにせよ。』と目線を送りました。あやつはそれに応え、
殿の御座所を出た所で、仕掛けました。親の欲目ながら、場を外さぬ出来る男に育ってくれました…」
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コメント
人間七七四年 | URL | -
今回のこれに限らず、上意討ちや敵討ちの作法のリスキーさはなんとかならんものかね。
もし上意討ち失敗したらどうなるん?
二の手三の手が来るにせよ、逃げられる可能性は無茶苦茶高いよね?
( 2010年12月28日 00:23 )
人間七七四年 | URL | -
目と目で通じ合う親子かっこいいな
殺伐としすぎてるけど
( 2010年12月28日 00:27 )
人間七七四年 | URL | -
家中に大坂派がいたのか。
無礼討ちを悔やんだ逸話があるから家臣にきついことをしない
イメージがあったんだが、お家の大事だし止むを得ないなぁ。
それにしても信繁は真田家の事を少しは考えろよ…。
( 2010年12月28日 00:48 )
名無しさん@ニュース2ちゃん | URL | -
「上意」の声をかけなかったせいで、乱心と間違われて殺された人とか居たなあ。
( 2010年12月28日 01:05 )
人間七七四年 | URL | -
っていうか、誰が見てたんだ?
( 2010年12月28日 03:21 )
人間七七四年 | URL | -
小姓・・・は若者だろうから「ちかごろの~」とか言わないよな
昌幸時代からの草の者が天井裏に潜んでるんじゃないかと
真田太平記的解釈をしてみる
( 2010年12月28日 14:34 )
人間七七四年 | URL | -
>>ttp://iiwarui.blog90.fc2.com/blog-entry-4987.html
で信州から援軍として派遣されたのが三十郎の父、祢津幸直。
沼田の矢沢頼綱、岩櫃の真田信幸に次ぐナンバー3として北条家の猛攻を凌ぎきった真田家でも指折りの
重臣ですね。
年齢が近く、一門の人間として一緒に育った事もあるし、同じ戦を潜り抜けた同士としても、信幸にとっ
ては右腕というか、股肱の臣だったんでしょうね。
( 2010年12月28日 19:31 )
人間七七四年 | URL | -
悪久「殿の目前で上意討ちとか我々の業界ではご褒美ですが?」
( 2010年12月28日 23:26 )
人間七七四年 | URL | -
*8
根津さんは
反撃されて主君の命を失うような危険を冒すな、
と訴えておりますが、あなたも逸話では同様ですよね(高みの見物)。
( 2010年12月29日 07:30 )
人間七七四年 | URL | -
『斬るなよ!絶対に斬るなよ!』
( 2010年12月30日 08:09 )
人間七七四年 | URL | -
上島殿はどちらが本音かたまに分からんときがあって困るのう
( 2010年12月30日 15:44 )
名無しさん@ニュース2ちゃん | URL | qbIq4rIg
ソースは分からんけど、死んだんじゃなくて責任被って浪人したって書いてるところもあるな。
( 2010年12月30日 19:55 [Edit] )
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