573 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/07/12(火) 22:58:42.09 ID:wDXLDvxV
栗山大膳利章には、同じく黒田家に仕える星野宗右衛門という友がいたが、この宗右衛門、親族の借金を
肩代わりして、博多商人・河内屋に三百両の負債を抱える身となった。
大膳は、友のために借金の弁済を試みたが、誇り高い宗右衛門は、申し出を受けようとしなかった。
ある日、大膳は宗右衛門の屋敷を訪れた。客間に通された大膳は、床の間に掛けられた軸に目を止めた。
「なかなか良い物をお持ちではないか。」
「大したものではないが、御意にかなえばお持ち帰りあれ。わしが持っていても意味は無い。」
「…では、遠慮なくいただこう。」
翌日、宗右衛門のもとに大膳から絹の包みが届いた。包みの中には陶器の花入と、書状が入っていた。
“先日の掛け軸の返礼に、この花入れを進呈いたす。もしお好みに合わねば、何人なりともお譲りあれ。
お出入りの河内屋など数寄に執心との事、しかも河内屋は貴殿ご所望の色紙も持ち合せと聞き及ぶ。
色紙と花入を交換するも良し、貴殿のご随意になされたし。”
「はて、俺は色紙など欲しくは…!色紙とは借用証文の事か。掛け軸を所望したのも、わしを救わんがため、
この花入と交換するために、わざと言った事か。大膳殿、すまぬ……」
さっそく宗右衛門は、花入を持って河内屋に駆け込んだ。「この花入、質に入れれば値はいかほどだ?」
花入を鑑定した河内屋は、仰天した。
「そ、宗右衛門様、こ、この花入をいったいどこで?!」
「ある人に譲ってもらった。良い物なら、借金の足しにしたいのだが。」
「これこそ名物花入・銘『旅枕』。かの利休居士が作らせ、太閤秀吉公みずからの命名になるとか。
太閤からご当地先代・長政公に、長政公から栗山家に下賜された、門外不出の逸品と聞きますが……」
「…仔細あって譲り受けた。して、いかほどになる?」
「これなら三百両を帳消しどころか、逆に三百両お支払い致しますぞ!」
「いや、借金を帳消しにするだけで良い。このわしに、富貴に浸る資格はない。」
花入と証文を取り替えた宗右衛門は帰り道、大膳の屋敷の前まで行くと、深々と頭を下げた。
家宝を捨てて友を救い、身を捨てて主家を救った男・栗山大膳の生きた証、『旅枕』の花入は今現在、
大阪和泉の久保惣記念美術館が所蔵している。国指定重要文化財である。
栗山大膳利章には、同じく黒田家に仕える星野宗右衛門という友がいたが、この宗右衛門、親族の借金を
肩代わりして、博多商人・河内屋に三百両の負債を抱える身となった。
大膳は、友のために借金の弁済を試みたが、誇り高い宗右衛門は、申し出を受けようとしなかった。
ある日、大膳は宗右衛門の屋敷を訪れた。客間に通された大膳は、床の間に掛けられた軸に目を止めた。
「なかなか良い物をお持ちではないか。」
「大したものではないが、御意にかなえばお持ち帰りあれ。わしが持っていても意味は無い。」
「…では、遠慮なくいただこう。」
翌日、宗右衛門のもとに大膳から絹の包みが届いた。包みの中には陶器の花入と、書状が入っていた。
“先日の掛け軸の返礼に、この花入れを進呈いたす。もしお好みに合わねば、何人なりともお譲りあれ。
お出入りの河内屋など数寄に執心との事、しかも河内屋は貴殿ご所望の色紙も持ち合せと聞き及ぶ。
色紙と花入を交換するも良し、貴殿のご随意になされたし。”
「はて、俺は色紙など欲しくは…!色紙とは借用証文の事か。掛け軸を所望したのも、わしを救わんがため、
この花入と交換するために、わざと言った事か。大膳殿、すまぬ……」
さっそく宗右衛門は、花入を持って河内屋に駆け込んだ。「この花入、質に入れれば値はいかほどだ?」
花入を鑑定した河内屋は、仰天した。
「そ、宗右衛門様、こ、この花入をいったいどこで?!」
「ある人に譲ってもらった。良い物なら、借金の足しにしたいのだが。」
「これこそ名物花入・銘『旅枕』。かの利休居士が作らせ、太閤秀吉公みずからの命名になるとか。
太閤からご当地先代・長政公に、長政公から栗山家に下賜された、門外不出の逸品と聞きますが……」
「…仔細あって譲り受けた。して、いかほどになる?」
「これなら三百両を帳消しどころか、逆に三百両お支払い致しますぞ!」
「いや、借金を帳消しにするだけで良い。このわしに、富貴に浸る資格はない。」
花入と証文を取り替えた宗右衛門は帰り道、大膳の屋敷の前まで行くと、深々と頭を下げた。
家宝を捨てて友を救い、身を捨てて主家を救った男・栗山大膳の生きた証、『旅枕』の花入は今現在、
大阪和泉の久保惣記念美術館が所蔵している。国指定重要文化財である。
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コメント
人間七七四年 | URL | -
これはかっこいい。
現代じゃなかなか真似出来ない。
変なイルカの絵をもらってフェラーリあげるみたいな。
( 2011年07月14日 02:31 )
人間七七四年 | URL | -
素晴らしい漢の友情だ。星野宗右衛門も大した人間だわ
( 2011年07月14日 03:05 )
人間七七四年 | URL | -
河内屋さんもグルな気がするなぁ
( 2011年07月14日 03:08 )
人間七七四年 | URL | -
黒田家の家臣団は日本一の家臣団だな
( 2011年07月14日 08:51 )
人間七七四年 | URL | -
カッコ良過ぎるだろう
( 2011年07月14日 16:44 )
人間七七四年 | URL | -
三百両は、とりあえずもらっとかにゃ。
あんときもらっといたら、って後で思うこともあるのに。
( 2011年07月14日 20:54 )
人間七七四年 | URL | -
金と命の使い処を心得ている者は、こうもカッコイイものか
( 2011年07月14日 21:14 )
人間七七四年 | URL | -
河内屋、丸儲けだろ。
黒田家臣の経済観念がなってない、
悪い話。
( 2011年07月15日 06:38 )
人間七七四年 | URL | -
栗山さんと河内屋さんで打ち合わせ済みと違うかな?
三百両丸儲けで余所に高額転売すると商売人として後がまずい。
それよりも、
栗山さんから河内屋さんへ友人の借金返済する。
栗山さん友人に旅枕を渡す。
友人が旅枕を持って河内屋さんへ来る。旅枕を河内屋さんが回収して栗山さんへ戻す。
河内屋さんは借金が回収かつ信用度upの方がウマーで無い?
友人が受け取らなかった旅枕の代金。
河内屋さんの手数料として栗山さんが払うように約束してたら面白い。
三百両言いましたけど、友人様受け取ってくれませんでしたよ。ワタシ眼福だけですか。
河内屋そちも悪じゃのう。
( 2011年07月15日 09:00 )
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