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栗山利安と指物争い

2011年07月18日 23:01

658 名前:1/2[sage] 投稿日:2011/07/18(月) 18:36:44.23 ID:AYRFFBTe
ある年のこと。

黒田家では村田出羽と堤九郎兵衛という二人が、白切裂の指物を差していたのだが、
村田が堤のところに使いをやって申すには

「白切裂の指物は私が久しく差していたのだが、ご存じなかったのだろうか?
戦場で紛らわしいので、あなたはその指物を止めていただきたい。」

これに対し堤の返答は
「昔のことはよく知りませんが、先年の治部少輔(石田三成)の乱の時、如水公が九州に出兵された折、
私はこの白切裂の指物を差していましたが、貴殿は金の半月の指物をしておられました。
そうであった以上これは私の指物と決まったようなものです。あなたの方こそ白切裂の指物を使うのを
止めていただきたい!」

村田はこれに反論
「あの乱の折私は御使番を仰せ付けられていたため、使番の指物を差していたのだ!
ただいまは立身つかまつり足軽頭を仰せ付けられた。そのため指物も元のものに戻したのである。
この事に疑い有らば家中の古参の人々に尋ねられよ、私が昔から白切裂の指物を使っていたことを
証明してくれるだろう!貴殿は早々に別の指物に取り替えられよ!」

堤もそんな事で納得しない
「昔はそうだったかも知れないが、私にとって既に一陣を勤めた指物である!これを指すことを止めるわけには
いかない!」

以上のようなことで、村田と堤の関係は一気に悪化した。
村田は「堤のところに行って指物を踏み折ってやる!」と言ったと云い、包も同じことを言ったと云い、
双方「踏み折れるものなら折ってみろ!」と指物をわざと屋敷の軒下の方に置いている、などと云われ、
もはや二人が道で行き逢えば刺し違えることに成るだろう、とまで言われた。

さらにはこの事を聞いた双方の親しいお調子者たちがそれぞれに「何かあったらお味方いたす!」などと
言ってきたりと、非常に面倒くさい事態へと発展してしまった。

これは流石に良くないと、双方の親類縁者、友人などが間に入って和解させようとしたが聞く耳持たず。
次に黒田家の中老たちが上司の立場から意見したがそれも聞き入れない。
双方異口同音に

「人間としてもし今の指物を止めれば、大いなる恥辱となります!
そんなことをしたら相手が『踏み折るなどと言いながら未だに踏み折らない。口ほどのこともない。
大した人物ではないな。』などと世間に言い回るでしょう!

ですから、御老中の意見は申すに及ばず、例え殿の上意であっても、その意見をお受けすることは出来ません!
切腹を仰せ付けられても、あの指物を止めることはありません!」

こう言い切った。
周りの人々はさすがにあきれ果て、終に黒田家の最高幹部である年寄衆に事の解決を願い出る事にし、
丁度、栗山備後守利安の屋敷にて年寄衆の寄り合いがあったため、そこに出向いてこの件を訴えた。


659 名前:2/2[sage] 投稿日:2011/07/18(月) 18:37:11.91 ID:AYRFFBTe
二人の親類衆の話を聞いた年寄衆は
「あの二人が指物について口論しているという話は聞いていたが、大したことでもないと思っていたのに、
そこまで話が大きくなっているとは」
と驚きいたが、村田、堤両名が、これ又同じように

『たとえ殿様の御意であっても指物を止めることはありません。御扶持を放たれれば上々の幸せ。
切腹を命ぜられようとも後悔しないと決心いたしました。
御老中の命令といえども、こればかりは承知することは出来ません。
私の決意はこれにて、解って頂けるでしょう。』

と言っていると聴き、「さてもさても苦々しい話だ」と言葉もなく静まり返った。

─と、この時それまで奥の間に居たこの屋敷の主人、栗山利安が戻ってきた。
栗山は話を聞くと「あっはっは」と笑い出し

「何だそんな事か。もっと早く聞かせてもらえればここまで難しい話にはならなかったのに。
まあいい。とにかく村田も堤もここに呼べ。私が両人に申し聞かそう。」

その場の人々「どういうつもりなんだろう?あの二人はもはや、どんな意見も聞くことなど無いのに。
話の内容をよく理解していないんじゃないのか?」と怪訝に思った。

呼び出された村田、堤は座敷に通された。そこで栗山は家人に「私の具足箱を持ってこい」と命じた。
その具足箱を開くと中から、なんと、その両名が命をかけて争っている当の物、白切裂の指物が出てきたではないか。
それを手に持ち、栗山は言う

「お前たち二人は指物のことで口論をしているとか。その争っているのがこれと同じものなら、それは無益の
争いだぞ。

これはな、わたしが若い頃、ずっと差して度々手柄を立てた指物なのだ。
その後成長して、小馬印には別の指物を指すようになったが、これは風に引っ張られることもなく、
まあ何より老後に、若い頃の事を思い出そうとしてな、この筑前に入国の翌年に拵え置いたものなんだ。
わが子大膳には、形見の品とも成るだろう。

お前たちは無用の議論をやめよ。もし未だやるきなら、指物に付いて俺と公事(裁判)をするかい?」

そうカラカラと笑った。

これに村田、堤両名は目が覚めた思いで
「さてさて是非に及ばぬ口論をしてしまい、面目もありません」と同じように答えたため、栗山

「元々二人に遺恨があったわけではないだろう。大急ぎで仲直りするんだな。
まったくお前たち二人は意地が強すぎて、いつも物事を難しくする。かなり宜しくない心得だぞ!」

としたたかに叱りつけると両名「仰せのごとく、我ら二人は遠い親戚でもあります。心やすく
付き合っていたはずなのですが、今回は石車に乗り(調子に乗ること)、是非なく命をかけた果し合いを
するところでした。さてさて、危ないところでした。
今や何の意趣遺恨も残ってはおりません」

と二人して大笑いし、同道して帰っていったという。

栗山利安、指物争いを和解させる、と言うお話
(古郷物語)




660 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/07/18(月) 20:31:49.57 ID:+IeTplzg
さすが黒田家の良心

661 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/07/18(月) 22:46:04.09 ID:GCqXaR70
水戸黄門のテーマ曲が似合う話だ


662 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2011/07/18(月) 22:46:46.34 ID:yu/UT1Di
理想の御家老だな
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コメント

  1. 人間七七四年 | URL | -

    どっかの御家老さんだとめんどくさがって閻魔様に裁断を任せそうな話だな

  2. 人間七七四年 | URL | -

    最後の旗指自体は未使用品
    この争いを収めるためにわざわざ新調した……ってのは考えすぎか

  3. 人間七七四年 | URL | -

    で、結局両名はどのような旗指物に変えたのですかな?

  4. 人間七七四年 | URL | -

    いや、流れとしては二人ともそのまま旗指物を使い続ける、じゃないかな?

  5. 忠之「両方切腹でいいのに」

  6. 人間七七四年 | URL | -

    お前ら実は仲良いんだろ!!!

  7. 人間七七四年 | URL | -

    さすがアットホームな黒田家。
    こんな子供じみた喧嘩にもみんなで頭捻るとか良い人たちだらけだわ。

  8. 人間七七四年 | URL | -

    発端がたいした事じゃない問題こそ収めにくい
    人は小さい事こそ譲れないとかなんとかかんとか

    両人に己のやっている事を客観的に見させて
    自ずから悟らせる
    意固地になっている人の仲裁の王道ですね

    仲裁の手並みの鮮やかさと仲直りのからっとした感じが
    気持ちの良い話でした

  9. 人間七七四年 | URL | -

    さすが黒田家は、我が強くて面倒くさい奴が多い。
    栗山備後だからこそ見事に収めたけど、もう一人の御家老である母里太兵衛のところに話を持ち込んでいたら、一体どんな結末になっていたかと考えると、ちょっと怖い気がするな。

  10. 人間七七四年 | URL | -

    >>9
    とりあえず酒で決着つける気がする。

  11. 名無しさん@ニュース2ちゃん | URL | -

    母里「俺と飲み比べして勝った奴が本当の持ち主だ!」
    →両方とも潰して一件落着

    こうですかわかりません!

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