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さてさて、律儀なる若者である

2013年11月20日 19:02

660 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2013/11/20(水) 06:58:35.49 ID:KSi/G5u7
関ヶ原も既に大勢は決まり、東軍による追撃戦に入った、申の刻(午後4時頃)過ぎの事である。
藤堂家の藤堂仁右衛門(高刑)は、あまりに戦い続けたため息切れし、谷水を探し山の間に入った。

すると一町ばかり先に、武者が一人うずくまっていた。怪しく思い近づくと、それは
大谷吉継の重臣、湯浅五助ではないか。
仁右衛門はこれ幸いと、彼に向かって声をかけ氏名を名乗った
「湯浅殿!鑓合わせ致そう!」

湯浅五助は名誉の大剛とは雖も、今朝からの合戦に、負傷もし疲弊していた。
そのためか、槍を構えても下鑓になり、そこに仁右衛門は、右の高股を突くと、五助は
尻から倒れた。しかし倒れながらも咄嗟に仁右衛門の鑓を切り折った。

そこで仁右衛門は太刀を抜いて飛び掛ったが、そこで五助は声を上げた
「申し上げたいことがある!待ち候へ!」

仁右衛門が動きを止めると、このように言った

「只今山際に埋めたのは、我が主君、刑部少輔の首である。
癩病にて、その面貌甚だ見苦しく、そのためこれを隠し埋めたのだ。
そなた以外にこれを知るものは居ない。どうか必ず、人に漏らさぬよう頼み申す!」

これを聞いて仁右衛門は感心した
「さてさて、なんと忠臣であろうか。成る程、武士たるもの、誰もそのようでありたいものよ。
承知した。軍神にかけて他言すまじぞ!」

五助は大いに喜んだ
「さすがは藤堂の甥であるぞ!さらば、我が首参らせん!」

立ち上がり一鑓合わせて、そして討ち取られた。

それから仁右衛門は、湯浅五助の首を主君高虎の実検に入れた。
高虎は大いに喜び、仁右衛門を徳川家康の本陣まで召し連れて
「私の甥が、名にしおう湯浅五助を仕留めました」

そう家康に申し上げた。家康も大いに喜び、
「仁右衛門、若年ながら比類なき手柄である。ではあるが…」

家康は仁右衛門に尋ねた
「湯浅五助は其の方に、容易に打ち取れるような武将ではない。どのようにして仕留めたのか?」

仁右衛門は彼を討取った様子を申し上げた。すると家康は
「五助ほどの者が、主人である刑部の先途を見届けずに討取られるような事はあるまい。
刑部が切腹したことは解っているが、その首の行方は現在まで捜索しても未だ知れず、不審に思っている。
もし刑部の始末を五助が取り扱ったのであれば、五助は何か心にかかることを、そなたに言わなかったか?」

仁右衛門は言った
「なるほど、刑部少輔の首については知らないわけではありません。ですがその事について私は、
絶対に言わないと五助と約束いたし、その上で鑓を合わせ仕留めたのです。
只今の上意が重いものであるからといってこれを話せば、私は武士を欠いてしまいます。
この上は、不届きであると私に刑罰を申し付け下さい。」

これを聞いた家康は、機嫌よく高笑いした。そして
「さてさて、律儀なる若者である。有り体に言えば、和泉(高虎)からも抜群の褒美を与えられただろうに…」

と、彼を御前近くまで呼び寄せ、手ずから刀を与えた。そして
「仁右衛門の鑓は切り折られたそうだな。これを遣わせ。」
と、側に立ててあった鑓もまた与えた。
これらは今も、仁右衛門の家に残されている。

(平尾留書)






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コメント

  1. 人間七七四年 | URL | -

    作者忘れたが短編小説で、この仁右衛門が主人公でこの後「本当は刑部の首のありか知らないのにデタラメ言ってる」って噂されて、一人で関ヶ原に首を掘りに行くが、掘り出した首に大量の髪の毛が残っているのを見て「ライ病患者にこんなに髪があるハズがない」って思って一人で真相を探っていく推理小説仕立ての話を読んだコトあった。あれはなかなか斬新で面白かった

  2. 人間七七四年 | URL | -

    以前出た奴の詳しい版かコレ

  3. 人間七七四年 | URL | -

    この話大好き、出てくる人の全員がカッコいい。

  4. 人間七七四年 | URL | -

    感動ブレイカーで申し訳ないですが、最初から「首を埋めた」と言わなければ
    その周辺にあると言う事実すら分からないのでは?と思ってしまう。
    それとも、「どうせ隠しても何時か掘り起こされるから、信頼に値する人に
    釘を指して置こう」と言う逸話なのですかね?

  5. 人間七七四年 | URL | -

    もしやあなたは本多佐渡の息子さんかね

  6. 人間七七四年 | URL | -

    実に三河的な逸話だ


  7. 人間七七四年 | URL | -

    ※4
    最初にうずくまってたのを見られてるんだから後で調べられたらバレちゃうじゃないか

  8. 人間七七四年 | URL | -

    ※7
    蹲ってた場所と埋めた場所って一緒なの?
    疲れてたから蹲ってたと読んだのだけど。

  9. 人間七七四年 | URL | -

    ※8
    当人が「只今山際に埋めたのは」って言ってるじゃないか

  10. 人間七七四年 | URL | -

    湯浅五助からすれば、埋めた所を見られたのか見られていないのかも判らないしね

  11. 人間七七四年 | URL | -

    下手に埋めた場所言わないでそこら中掘り返される方がよほど迷惑だと思うけどね。

  12. 人間七七四年 | URL | -

    この話聞いた後だと掘り返しても家康さんに怒られそうだよね

  13. 人間七七四年 | URL | B4ff.1Vc

    ※12
    家康もめんどくさいから間違いなく不機嫌になって武士とは、と語り出すと思う。

  14. 人間七七四年 | URL | -

    ※13
    こんな話のあとで吉継の首を持ってこられたら
    家康じゃなくても説教の一つくらいするだろw

  15. 人間七七四年 | URL | -

    ※9
    山際がそこだったのか?そこから移動してからの話かで全然意味が違うだろ?
    それを言ってるのだろうよ。君もちょっと考えて書けよ。

  16. 人間七七四年 | URL | -

    ※15
    「只今」という字が読めないんですかね。
    どう考えても埋めてるところを見られてますよ。

  17. 人間七七四年 | URL | -

    ケンカすんな、ってかこのケンカを見た後でコメの一番最初に言った俺の推理小説版『刑部の首』(確かこんな題名だった)を読むと更にグッとくるんだよ。
    かえすがえすも作者忘れたのが無念だ、確か複数の作家の短編の歴史小説を一冊にまとめた中の一つで、大手出版社だったハズ。
    おそらく作者も同じ疑問を感じてたんだろうな。
    だが、コレはオリジナルの説だが、実際には仁右衛門は湯浅吾郎が大谷刑部の首を埋めたシーンは見ておらず、家康も刑部の首のありかを聞いたんじゃなく、湯浅吾郎を討った場所を尋ねただけだったのが、色々はしょって伝わったのなら全て納得行くんじゃないか?
    通常、首実験の時って名のある武将の首なら「いつ」「どこで」「どんな風に」討ったのか詳しく聴くのが当然だろう。
    で、吾郎を討った場所から大谷軍の本陣があった場所まで、人海戦術でシラミ潰しに探せば見つかる、と。
    仁右衛門もソレに気づいて、敢えて吾郎最後の場所は答えなかった。コレなら全部きれいにまとまる。
    ま、全部俺の妄想だけどね。

  18. 人間七七四年 | URL | JalddpaA

    ※17
    凄く納得した

    もし仁右衛門が場所を教えたら→東軍総出で病人一人の首を大捜索じゃ~!
    とか、大谷側にも家康側にも格好悪い話になったかもなw

    つか小説の題名と作者名、もし思い出したら※してくれ、是非読んでみたい

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