上州犬伏にて

2016年05月13日 18:04

615 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2016/05/12(木) 20:36:13.50 ID:lpkqYaEd
真田左衛門佐幸村(信繁、または信仍と有る)は、信州上田城主、安房守昌幸の次男である。
去る慶長5年、上杉景勝反逆の故に、徳川家康は上杉攻めとして、諸大名を召しつれ伏見を発向し、
関東に下向したことにより、真田昌幸、嫡男伊豆守信幸、次男左衛門佐幸村も、上州犬伏まで
打ち出た所、石田治部少輔三成、大谷刑部少輔吉継両人より、昌幸に書状が届いた。
その内容は、

『今度天下の御為に大老奉行相談し、内府(家康)を滅ぼすこととなった。真田父子も同意あって、
会津への出陣を止められよ。』
というものであった。昌幸は伊豆守、左衛門佐が先陣に在ったのを呼び返して言った

「たった今、石田、大谷より申してきた内容を見るに、上杉景勝が幼君に対し逆心の無いことは
明らかだ。この上は内府を敵とし、ここより引き返すべし。お前たちはどう思うか?」

伊豆守は答えた
「仰せ、誠に至極です。今回内府に従うのは、世上の批判も大きいでしょう。その上父上は石田治部と
御縁者(ある説によると、真田昌幸と石田三成は、ともに宇多下野守(頼忠)の婿であるとされる)です。
また左衛門佐は大谷刑部の婿であり、上方に筋目が有るのですから、先ずは御領内に帰って御思慮
あるべきでしょう。

しかし私は内府と御懇意であり、ことに本多中務(忠勝)と縁者のよしみがあり、お許しいただけるなら
徳川家の旗下に属したいと思います。そしてその上で、なお志す所があります。
もし、上方の軍が敗れ、城々に籠もった者達まで内府によって罰せられた場合、私が父と弟の罪を
謝し、如何にもして危難を救い、それのみならず、真田の氏族が断絶しないように私は計ります。」

これを聞くやいなや、左衛門佐は言った
「憚りながら兄上に、私がご意見申し上げます。
内府がどれだけ懇切だったとしても、それは太閤の御恩に及ぶものではありません。
また本多中務と縁者のよしみがあっても、それは私的な関係であり、公儀の事ではありません。
また、上方の軍が敗れたと時は父上と私の身命の危うきを救って下さるとのことですが、
おおよそ戦場に臨みて功なき時は、将より士卒に至るまで、必ず戦死する事となります。
然らば、父上と私が存命かどうかも計り難い。

それに御苗字のために内府に属すると言われるのも、あまりに難しい御思案です。
秀頼公のために一家尽く滅んでも、ご先祖への不孝とはならないでしょう。

事新しい儀ではありますが、天正年中に父上と内府が不和となった時、一旦は当家の武功によって
徳川家の軍勢を切り崩しました。しかし徳川、北条が手を結び、重ねて大軍によって攻められれば、
籠城も危うい状況であったのに、太閤の御下知によって和談と成りました。この時は上杉も、
越後より後詰を出されました。これらは浅からぬ恩義ではないのでしょうか!?

それ以降豊臣家の旗下に属すること十余年です。これで君恩を忘れ、景勝殿の志を捨て、
内府の味方をするというのは、人たる道ではありません!
兄上は御若年より器量も人に優れ、戦功も立てられた、一廉の御用に立たれる人なのに、
それがむざむざと敵になる事、残念至極です!」

これに信幸は大いに立腹し
「父上に先立って無用のことを言うのみならず、内府の旗下に属する者は人たる道に非ずなどと、
妄に私を軽んじ讒るとは!今一言を出すにおいては、即時に討って捨てる!」
そう太刀の柄に手をかけると、左衛門佐は少しも動ぜず返答した

「私は豊臣家のために死のうと思っている生命なのですから、ここにて御手にかけられる事、
御免あるべし。」

ここで昌幸が間に入り二人を制して
「伊豆守が言うことを考えたが、一応その理無きにしも非ずだ。秀頼公の御大事も、今回に
限ったことではあるまい。ただ自分の望みに従って、内府の味方をせよ。」

そう打ち解けて、免した。こうして伊豆守はここから徳川秀忠の手に属し、安房守・左衛門佐と
別れたのである。
(新東鑑)




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コメント

  1. 人間七七四年 | URL | -

    「真田丸」では、秀吉の命で家康の配下になってたけど、犬伏の別れに結びつく流れがあるのかな。

  2. 人間七七四年 | URL | -

    時代の波を乗りこなそうとしたら、一筋縄ではいかない、ってことだと思う。

  3. 人間七七四年 | URL | -

    信繁の性格の悪さがよく出てるな

  4. 人間七七四年 | URL | -

    本当に軍略上の判断なら、単に小大名がどっちが勝っても良いように保険掛けただけでしょうに
    あの時期に差しかかっても、まだ徳川に勢いなしと思うなら、本当に目が無いよ

    真田家が言う程豊臣家に大恩ある様には見えないし、徳川家との因縁から
    豊臣側に付きたいって感情なのでは?

  5. 人間七七四年 | URL | -

    と言うか真田に限らず多くの大名が親子で東西に別れて家名保ったり減封されたりしてる
    真田も同じことをしただけで全く変なことではない

  6. 人間七七四年 | URL | iHsPI8ow

    沼田代替地問題裁定→名胡桃城事件→小田原征伐→沼田ごと再度真田領へ、の流れは豊臣家に大恩あると考える動機としては十分あり得るのでは。

  7. 人間七七四年 | URL | -

    考えようによっては、いろいろと好条件を提示して味方に引き込んでおいて、戦後、知らんぷりするのが内府の戦略かも知れないと思う今日この頃、真田もこれに振り回されている面は否めないけど、頭から徳川に歯向かうべし、は太閤殿下お墨付きの「表裏比興ノ者」が言うことでも無いと思う。

  8. 人間七七四年 | URL | -

    6殿、7殿を読んで…単なる個人的な印象で書くけど、
    あれだけ表裏比興ノ者だった、生き残るためにはなんでもやってかなり冴えていた昌幸だけど、
    この時は最終的に家康より秀吉の「キャラクター」の方に引かれたのかなと。
    ものの考え方というか。

  9. 人間七七四年 | URL | v6fF2A2I

    犬伏は上州じゃなくて野州なのでは

  10. 人間七七四年 | URL | -

    そんなに性格悪いわけではないと思うが…>信繁
    本当に性格悪くて素行も悪かったら、信之だってああまで嘆願して生かさないよ

    昨日まで目の敵にしてた親玉を今から主君って、そんな簡単に切り替えられるほど人は強かにはなれないよ、だから文官と言えど石田三成が蜂起したわけだ

    この兄弟、目指す先は同じ真田の繁栄でも「理論で動く」か「感情論で動く」かで別れたのでは?

    たまたま現実的で理論派だったのが信之で、そんな信之だから先を見て徳川を推したけど
    理想的で感情論派だった信繁は、それまでの因縁や恩、自分や父親の本心を考えて豊臣を推したって話

  11. 人間七七四年 | URL | -

    ※10
    信之「無口で怒った事がない可愛い弟なんです」

  12. 人間七七四年 | URL | -

    YAZAWA「どちらが天下に覇を唱えようと沼田は絶対に渡さんぞ!ハーッハッハッハッ!」
    昌幸「信幸、言い分は聞いてやるからあいつらはお前が面倒見ろ」
    信幸「えぇ!?火種は父上が持っていてくださいよ!」

  13. 人間七七四年 | URL | -

    K〇MATSU姫「一個師団が槍もって一人で歩いてるような武将を部下にしとくのは、ちょっと大変かも。」

  14. 人間七七四年 | URL | -

    真田は豊臣配下の大名で、徳川の与力になっただけ。
    徳川の家臣になったわけではない

  15. 人間七七四年 | URL | -

    ※6
    そんなの別段真田家だけの事柄じゃないのでは?
    その一連の流れも秀吉が出した惣無事令に沿っただけのこと

    徳川家もそれで真田家に手を出さなくなったし、後北条家が違反して
    北条征伐の切欠になっただけ、特別な事は何もない

  16. 人間七七四年 | URL | -

    自分も寧ろお兄ちゃん派だけど、信繁は性格悪いと思わない
    九度山での事だって、やる事無いからってだけで子供作ってたわけじゃないと思う
    明日は情勢がどうなるか分からない時に、子供沢山居た方が子孫(家名)残るとも考えて、
    弟はそうしたんじゃないかな
    子供は親に生きる力を与えてくれるし

  17. 人間七七四年 | URL | -

    信繁の性格が悪いといっているのは、例のアンチ信繁の荒らしでしょ?

  18. 人間七七四年 | URL | BUYKH9h.

    ※9
    それ、俺も気になった
    両毛地域って県境越えた文化的つながりが強い地域だけれど、犬伏(現 佐野市)が上州だったこともあったの?
    それとも新東鑑を書いた人は勘違いしていたのかな?

  19. 人間七七四年 | URL | -

    とりあえず、登場人物全員が真田丸で再現されてしまう。

  20. 人間七七四年 | URL | -

    ※18
    野州が上州扱いされるのは古代からの伝統だから、反対もまたしかり
    現代でも間違えるやつは結構いるし
    ただまじめな会話の文のなかで堂々と間違えられると現実に戻ってきてしまうので
    悲しくはなる

  21. 人間七七四年 | URL | -

    現在でも「群馬」「栃木」は間違えられ、「茨城」と共に「魅力のない県」にあげられてる

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