いま一言をもって日延べをお許しになられたこと

2016年05月29日 13:09

772 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2016/05/29(日) 09:31:21.71 ID:9iJTYgQ1
慶長の末年、大久保相模守忠隣は本多正信の讒言により、所領を召し上げられた。

その時、安藤対馬守(重信)は小田原の居城を受け取るべしとの命を受け、大久保の
家老・天野金太夫を呼び、「当城内外の諸臣らは、今明日のうちに他所へ退出せよ」
との旨を命じた。すると天野は曰く、

「主人・忠隣の事は、不幸にして罪を蒙り、臣らは今この命を承って、公儀に対して
誰が異議に及ぶことだろう。されども、家臣がこの城を預かり守る主人の命令無くして
他に城を渡すことは臣たる者の道に非ず。

それに、いま城下にいる小臣奴婢などの類は多い。彼らがすぐさま退かなければ
ならないことについて、少なからず憂いがある。この事をぜひともお察しして頂きたい!」
と、言った。その言葉は意気盛んであった。

安藤はこれを聞くと、「私はいま上意のままに命令をなしている。しかしながら、
汝の言うことは実に道理である。日を延ばして城を渡すようにせよ。私がこの事を
取り計らおう」と言って、退いた。

天野は曰く、「わたくしめは、齢傾き見苦しくとも一刀を下して皺腹を切り、貴殿の
馬前を汚さんと思ったのに、いま一言をもって日延べをお許しになられたこと、幸い
これに過ぎず!」と、厚く感謝した。

さて、主人・忠隣からの下知を待って、その後は内外とも騒々しくはならずに神妙に
立ち去った。「大臣たる者の振る舞いはこのようでこそあるべきである」と、諸人は
感賞したということである。

――『明良洪範』



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